リタイアしたら、『地球の歩き方』にも載っていない町に行ってみよう

世界遺産を見なくてもいいじゃないか
7月25日、おとなの青春旅行の刊行を記念し、編著者である下川裕治氏と室橋裕和氏がトークイベントを行った。会場となった旅の本屋「のまど」は、立ち見も出るほどの超満員。共著者である津久井英明氏やSannaさんも駆けつけ、旅の良さを語り尽くした対談の、美味しいところを紹介する前編
会場は超満員

星空を眺めながら白酒を

室橋 僕と下川さんは同じ事務所で机を持っていて、仕事をしておりますが、このひと月、ふた月、下川さんの姿が全然見えないなぁと思っていました。下川さん、どこにいたんですか?

下川 『歩くバンコク』というガイドブックの監修役として、タイに行っていましたが、1週間の予定が1ヵ月になっちゃった(笑)。それで、その間に、パキスタンとインドへ行かなきゃいけなくて。そのあともう帰れるかなと思ったら、次のインドネシアの取材がまた迫ってきて。そういうハードな旅はしたくないんだけど、今回、インドとパキスタンは青春旅行になっちゃいました。

室橋 こちらの『おとなの青春旅行』という本なんですけれど、どちらかと言えば、シニアの個人旅行のススメになっています。この1~2年、下川さんはシニア関連本を多数出していますけれど、何か背景みたいなものはあるんでしょうか?

下川 本を読むのはシニアという傾向がどんどん強くなってきたことと、日本人のシニアがやっぱり元気なことがあります。健康状態が非常に良くて、元気のありすぎる人も中にはいるんだけど、ある程度時間の余裕が出てきたときに何をやりたいかとなってくると、かなり上位に「旅」というのが挙がってくる。

若い頃忙しくて、自分は一生懸命働かなきゃいけなかった世代とか、あるいは学生時代、ちょっとバックパッカーの旅をしてみた人たちが、もう一度時間が自由に使えるとなったとき、行ってみたい人たちはかなりの数いるんだろうなと思います。

室橋 『おとなの青春旅行』では、僕や下川さんはアジアメインなんですけれど、その他にもアメリカ、ヨーロッパも含めて、かなり個性的な15のコースを集めたかなと思っています。その中でもかなり印象的だったのは、下川さんの紹介したチベットの旅(「標高5000m、天空をゆく」)だったんですね。

チベットのものすごく壮大な星空を見上げながら、下川さんが渋くウイスキーを飲むというあの場面が印象的だったんです。実際行ってみると、あそこはやはりすばらしいものでしょうか?

チベットを青蔵鉄道で眺める(写真:阿部稔哉)

下川 はい、ぜひ行ったほうがいいですよ。西寧からラサ行きのチケットは普通に買えます。ラサの入域証というのを作らなきゃいけないんだけど、それは日本の旅行会社でも簡単に作れる。

で、何がいいかというと、5000m近くに夜行列車に乗っていくんですけど、必ず晴れるんですね、夜は。雲を抜けるんです。そうすると、必ず見事な星空が出てきて、それを見ながら、夜行列車ですからベッドがあって、白酒(パイチュウ)でチョビチョビやりながら行くのは非常にいいです。星空をずっと眺めながらお酒を飲むのは、かなり贅沢だと思います。

もう一ついいのは、終電がない。酔ったら寝ちゃえばいいという贅沢ができるということですね。高山病にかかった方にはちょっと辛いかもしれないけど、それが大丈夫だったら、最近のいろいろな世界旅行の中でも、かなり贅沢な部類に入ります。

室橋 チベットに着いてから、必ず係員というか、監視的な人がついていかなきゃダメなんですよね。

下川 そうそう。中国にとってのチベットは、西側が進出してくることに対して非常に神経使っているところ。ガイドが付かないと何もできません。ガイドというのは、半分ガイドだけど、半分監視役です。ですので、下手なことはできないです。

僕は「風の旅行社」という会社から手配したので、チベット人ガイドが付きました。別に旅行会社の宣伝をするわけじゃないけど、ガイドの手配は旅行会社しかできないんですね。ですので、旅行会社に手配してもらうときは必ずチベット人ガイドにしてくださいと言いましょう。中国人ガイドが付くと、チベット料理も食べさせてくれないらしいので。

今年、去年もそうですけど、五体投地(両膝・両肘・頭を地に着ける最高の敬礼法)がブームなんですよね、日本で。五体投地って大変じゃないですか、体力的に。ポタラ宮をグルッと3周しなきゃいけないんですけど、毎年、年末になると、日本人のファンが50人ぐらい来るらしいんですね。

室橋 皆さん、こちらがポタラ宮です。

チベット仏教の聖地・ポタラ宮(写真:同上)

下川 五体投地をやると五時間ぐらいかかるんじゃない。最後、すごい筋肉痛になるんですけど、静かなブームらしいです。

室橋 パーミットとか、ガイド料はいくらぐらいかかるんですか。

下川 パーミットを取るためにホテルを予約し、日程を全部決めないといけないんですよ。全部込みの料金になっているので、僕らは2泊3日で、ガイド一人付いて、3万5000円ぐらいです。

情報がない町に行ってみたら・・・

室橋 ありがとうございます。今回、本の中で僕もいくつかコースを紹介させてもらったんですけれど、あまり旅の経験がないシニアにも若い方にも、お薦めできるようなコースをなるべく紹介しようと思いました。

その一つが、やっぱり定番中の定番ではあるんですけど、インドシナ半島なんですね。タイのバンコクを中心としてベトナム、カンボジア、ラオスの4ヵ国を回っていくという旅です(「インドシナ半島を陸路でぐるり1周」)。

なぜおススメかというと、個人旅行からツアーの人たちまで、旅人に対するインフラがものすごく整っていて、実に旅がしやすいんですね。カンボジアというと、いまだに地雷、虐殺とかいうイメージを持たれている年輩の方もいらっしゃるんですけれど、もうそんな時代ではない。多少まだ危ないところはあるにしても、日本の協力もあって、バスであったり、乗り合いのバンなどが走っているので、けっこう簡単に旅ができる。

各地に見どころもたくさんあって、世界遺産のアンコールワットだとか、ルアンパバーンだとか、あとはベトナムのフエの王宮だとかをグルグル回りながら旅をするコースがかなり良いです。

常々言っていますが、タイはやっぱり田舎のほうに良さがあると思うんですね。バンコクも確かに良いところだし、日本食は何でもあるし、日本語で用は足せるし、非常に便利なんですけれど、タイは、敢えていえば『地球の歩き方』に1ページしか情報が載っていない町に行ってみるというのが僕の持論です。地図とホテルの情報とレストランの情報がチョコチョコとあるだけの町に行ってみるだけでも、かなりおもしろいんですね。

必ず宿はあって、安心・安全だし、Wi-Fiぐらいは通じる。屋台街に行けば、そこそこ美味しいものは食べられる。何より、地元のタイ人とけっこう触れ合えるんです。たとえばタイ東北部の県の端っこに行ったって、けっこう楽に旅ができるんです。なおかつちょっとした冒険心も満たせる。下川さん、最近イサーンへ行かれましたか?