2018.09.11
# 環境 # 植物学

3.11の放射性物質は農作物に入ったのか? 農業は復興できたのか?

放射能汚染の「その後」(後編)
雨宮 崇 プロフィール

一方、ほとんどの野菜に関しては、カリウム肥料が十分に与えられていたため、追加措置の必要はありませんでした。それらの対策によって、多くの農作物では基準値を超過するものは出ていません。

しかし一方で、山で自生しているものを含めた「きのこ・山菜」や「水産物」に関しては、2015年時点でそれぞれ検査件数の1.0%と0.1%というように、超過するものが完全になくなっていません。また、ジビエはまだ22%のものが基準値を超過しています。

食品の放射性セシウム検査数と基準値超過件数食品の放射性セシウム検査数と基準値超過件数(消費者庁)

つまり、人間の管理のもとで生産をできない食品に関しては、まだ基準値を超えるものが出ています。

長期的に土壌からの移行を抑制するカリウム施肥に向けて

カリウム施肥はセシウム吸収抑制対策として効果があることを見てきましたが、その肥料を撒くのは農家の方であり、費用と労力はかかり続けます。

そこで、この対策をいつまで続けるべきかを探るべく、研究が行われています。

放射性セシウムの移行抑制対策として「生育を通して土中のカリウム濃度を25mg/100gに維持する」という目安がありますが、その値は2011年に行った調査結果に基づいたものです。

研究の結果、年数を経るごとに土壌粒子と吸着する放射性セシウムの割合が増えるので、同じカリウム濃度でも、移行係数が下がることがわかりました。

また、粘土鉱物の種類や量によっても移行係数が異なることもわかってきました。

収穫期のカリウム含量と移行係数(上)経過年数の推移(下)土壌成分の違い収穫期のカリウム含量と移行係数
上:経過年数の推移 下:土壌成分の違い(農研機構 山村ら)

つまり、「植物種」「事故からの経過時間」「土壌の成分」を把握することで、移行係数をより詳細に推定することが可能になってきました。

2018年度からはこの結果に基づいて、実際に施肥量を決める実証実験も行われています。

この先に必要な「高度な対策」とは

最後に、この記事の前後編を通じて指摘したことをまとめます。

●事故により放出された放射性物質は、広範囲の農地に降下した。
●事故直後の対策として、放射性セシウムが直接付着した部分を物理的に除去する方法は効果的であるが、放射性物質を完全に除去できるわけではない。
●土壌から作物への放射性物質の取り込み対策として、カリウム施肥をして土壌中の交換性カリウム濃度を維持する移行抑制対策が取られている。
●土壌や汚染状況などによって期間に差はあるものの、施肥あるいは地域資源の循環などでカリウムの適切な供給を続けることによって、安全な農作物を供給できる。

なお、現在ではこれらの対策に加えて、イオンビームを使って植物に突然変異体をつくり、味や収量は変わらないが放射性セシウムの吸収量だけが少ないものを見つけ出す、という研究なども行われています(農研機構・石川ら 協力研究機関:福島県農業総合センター)。

信濃教授は講演をこのように締めくくりました。

──福島産の農作物をさらに良質なものとして提供したいと思っています。

そのために必要になってくるのが、逆境をバネにして農業基盤の増強や地力の増進、肥沃度の向上を図ることです。

元に戻す技術ではなくて、それをさらに先に進める技術を見いだし、いずれは周りの県から「福島県の土壌いいな」と言ってもらうことを目標にしています。

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