それによって放出された放射性物質は、事故から7年以上が経過した今、どこに、どれだけあるのでしょうか。
日本科学未来館では、2018年3月10日に研究者を招いてシンポジウムを開きました。そこで研究者が語った内容のうち、農業での対策に関する知見をまとめました。
シンポジウム登壇者:
中島映至(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)
恩田裕一(筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター)
山田正俊(弘前大学 被ばく医療総合研究所)
信濃卓郎(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)
※本稿は登壇者のプレゼンテーションをまとめたものです
本稿の前編では、福島第一原発事故以降の放射性物質(主に放射性セシウム)の動き方や量を、大きな視点で見てきました。
後編では、放射性物質が降下した地域で、どのように農業がおこなわれているかを中心に見ていきましょう。
あの日、農作物に何が起きたか
前編で述べた通り、事故によって原子炉から種々の放射性物質が放出されました。半減期が約30年と長く、放出された総量も多かったセシウム137は15〜20PBqほどと見積もられており、それらの約2割が陸地に降り注いだと推計されています。
それら放射性物質は、農作物に直接付着し、また土壌を汚染しました。汚染された農作物は出荷停止を余儀なくされ、土壌が汚染された農地は使えるのかどうかもわからず、農業従業者を大きな混乱と不安が襲いました。
地震発生から出荷停止要請発令までを時系列で簡単にまとめます。
2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震の発生。津波によって、福島第一原子力発電所の全交流電源の喪失。東北地方を中心に大規模な停電。
3月12日 1号機で水素爆発。
3月14日 3号機で水素爆発。
3月15日 2号機でベント作業開始。
3月17日 厚生労働省から「食品と水に関する暫定基準値」が出され、出荷してはいけない汚染レベルを示す基準として、食品1kgに含まれる放射性物質の量の上限値が設けられる。その後、いくつかの食品(ホウレンソウや原乳など)において、その基準値を超えるものが報告される。
3月21日 原子力災害対策本部から福島県、茨城県、栃木県、群馬県に対して、ホウレンソウやカキナ、原乳の出荷停止要請が出される。
なお、食品と水に関する基準値は、2012年4月に「より一層の食品の安全、安心を確保する」という考え方に基づき、暫定基準値から現在の基準値へと変更されています。

現在の基準値をベースにして考えると、事故直後、福島県においては果樹や茶、小麦や大豆といったかなり多くの作物において100Bq/kgを超えるものが報告されました。
また、茶に関しては、原発から約400km離れた静岡でも100Bq/kg超えのものが報告されました。
これら事故直後に極めて広範囲で起こった汚染は、原発から放出された放射性物質が大気に拡散し、地表の農作物に「直接付着」したことが大きな要因とされています。
そのような状況に対して、科学的な調査を重ねた結果、農作物における汚染のメカニズムが徐々にわかってきました。
ここからは、農業の復興に向けてどのような取り組みがなされてきたかを紹介します。
「お茶」は1年で効果が出た
まずは放射性物質の直接付着に対して取られた方法のうち、効果が大きかった茶樹の対応策を一例として紹介します。
放射性セシウムが直接付着してしまったその年の茶葉は、捨てるしかありませんでした。
しかし次の年にはまた新しい枝や葉が生えてくるので、そこに放射性セシウムが入り込まないように、何らかの対策を打っておけばよいのではと考えられました。