黒田日銀が「デフレ克服」を諦めて消費増税実現に舵を切った可能性

黒田発言を丁寧に読み解く

視点を変えてみれば…

黒田日銀総裁が先週火曜日(7月31日)に公表した「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を巡って、様々な解説やコメントが交錯している。そもそも原典が意見の異なる日銀審議委員たちの合作でレトリック(修辞学)も多いだけに、様々な解説にはそれぞれ傾聴に値するポイントがある。だが、筆者はそれらの解説とはちょっと違った視点があってよいと感じている。

それは、この「金融緩和」が、目的の面でも、手法の面でも、アベノミクスの3本の矢のひとつとして始まったものとは異なるものに変質しつつあるという視点だ。

どういうことかと言うと、新たな「金融緩和」は、当初の目的だった「デフレ経済からの脱却」を脇に置き、むしろ、来年秋に迫った、税率を10%に引き上げる消費増税の3度目の延期をさせないことに主眼を置いたものに生まれ変わりつつあるということだ。

そして、政策目的を実現するための方策も、当初の「量的・質的金融緩和」が限界に直面し、これを縮小。代わりに、マイナス金利の深掘りの可能性を含む伝統的な金利調節を主軸に据えざるを得ない状況に陥っていると言えるだろう。

だが、デフレ脱却が重要なテーマでなくなり、経済が危機対応の金融政策を必要としない段階に到達したのならば、円相場の安定に目を配りながら、金融政策の正常化を目指すのが常道のはずである。頑なに過度な金融緩和を続けることは弊害を伴うので、我々は金融政策が歴史的な失敗を犯さないか、しっかり注視していく必要がありそうだ。

 

黒田発言を読み解く際に、注意すべきこと

最初に、お断りしておく。このコラムは、経済ジャーナリストとしての取材をベースにした筆者の個人的見解に基づくものだ。筆者が社外取締役をつとめるゆうちょ銀行の経営や立場とは一切関係ない。

さて、本題に入ろう。まず、あの記者会見の黒田総裁発言を振り返っておこう。紹介はポイント部分に限るので、全体に興味のある読者は、日銀の公式議事録を参照してほしい。リンクは下記の通りである。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2018/kk180801a.pdf

黒田総裁は冒頭で、「強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、政策金利のフォワードガイダンスを導入することにより、『物価安定の目標』の実現に対するコミットメントを強めるとともに、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の持続性を強化する措置を決定しました」と大見えを切った。

さらに、「『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の持続性を強化する措置について説明します。長短金利操作、いわゆる『イールドカーブ・コントロール』に関しては、短期金利・長期金利とも、基本的に、これまでの水準から変更ありません。すなわち、短期金利については、日本銀行当座預金のうち 政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する方針を維持することを決定しました。長期金利についても、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、 長期国債の買入れを行う方針を維持しました」と強調した。

黒田発言を読み解くにあたって注意すべきなのは、伝統的に、総理の解散発言と並んで、日銀総裁の公定歩合(金融政策)を巡る発言は「ウソをついてよい」とされてきたことだ。近いところでは、日銀は2016年1月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決めたが、黒田総裁が決定直前まで国会証言などで「(マイナス金利導入は)検討していないし、考えが変わることもない」と否定し続けた例がある。