大阪市が目指す教育改革は「最先端から2周遅れ」の間違った改革だ

「政令都市最下位」の焦りもわかるが…
畠山 勝太 プロフィール

努力が足りないから結果が出ないのか?

このメリットペイの問題点を解消するために生み出されたのが「Value-Added Model (VAM)」である。

VAMについては以前の記事の中でも紹介したが、要点をもう一度説明すると、VAMは家庭・生徒・教師・学校・地域社会・前年度の結果のデータを包括的に収集することで、諸条件を一定としたときに、教員や学校がどれだけ子供の学力向上に寄与しているのかを測定する手法である。

VAMの運用には、データ収集やデータ分析にかかるコストが大きくなるため、これを運用する費用便益分析または費用対効果分析を実施したいところである。

しかし、教員評価の公正性という問題をほぼ完璧に解消し、不正行為の問題点も緩和し、教員に職能改善を促すと思われたVAMもまた、大きな問題を抱えている。

〔PHOTO〕iStock

VAMが抱える問題とは、その実用性である。

教え子の学力向上に貢献していたら昇給、貢献できなかったら減給というのは非常に明確であるが、教員が減給されたからといって発奮して子供の学力が向上するかというと、そうとは限らない。

努力が足りないから結果が出ないのは日本ではウケそうな発想ではあるが、正しい方向に努力を積み重ねるからこそ結果に結びつくのであり、間違った努力を繰り返しても結果は出ない。

これと同じで、子供の成績の上げ方を分かっていない教師を、努力が足りないと責めたり、減給により発奮を促したりしても、子供の学力は向上しようがない。

これを克服するために現在教育政策の分野で議論がされているのが、授業観察に基づく教員の人事評価である。

VAM単独では子供の学力向上のために何をすればよいのか分からなかった教員も、授業観察に基づく評価が加わることで、何をすべきかのフィードバックを受け取ることができる。

また、減給処分に処す際でも、よく分からないモデルに基づく結果だけでは多くの教員は納得いかないであろうが、授業実践の問題点を指摘されたうえで結果が出ていないことを指摘されれば、その結果は受け入れざるを得ないであろう。

 

この最後に指摘した点は重要である。

VAMは、統計分析の訓練を受けた教育行政官のウケは良いが(日本にはそもそもそのような人材がいないが)、計量経済学を学習したわけではない現場の教員にとっては得体のしれないものに過ぎず、それによる人事評価を受け入れるのは難しい。

たしかに計量経済学やインパクト評価を教員養成科目に組み込むのは一つの手ではあるが、それに代わって現在の教職科目から何を外すかを考えると、やはり現実的ではないだろう。

教員給与制度は、俸給表→キャリアラダー・メリットペイ→VAM→VAMと授業評価の組み合わせ、と進化してきている。

現在大阪市が導入を検討しているメリットペイは4段階に進化してきた教員人事評価制度の第二段階目に位置しており、最先端の教育政策議論から文字通り2周遅れているのである。