大阪市が目指す教育改革は「最先端から2周遅れ」の間違った改革だ

「政令都市最下位」の焦りもわかるが…
畠山 勝太 プロフィール

教員を「事後評価」する制度の欠点

ここでは百歩譲って、子供の学力の向上が学校の至上命題だと仮定しよう。

しかし、それでもやはり大阪市の学力テストを用いた教員給与システムは誤りであり、最先端の議論から丁度2周遅れだと言える。

なぜ2周遅れだと断言できるのかを明らかにするために、教育政策における教員給与システムに関する議論の変遷を簡単に紹介したい。

まず、最も古い教員給与制度である、学歴と経験年数に基づく俸給表は二つの大きな問題を抱えている。

一つは、学歴も経験年数も教員の質とそこまで大きな相関が無いことで、もう一つは、特に何もしなくてもクビにならない限り昇給が続くため、教員に職能成長を促す機能が無いことである。

これらの問題点を克服するために生み出されたのが、キャリアラダーシステムとメリットペイである。

前者は教員の職階を増やし、職能に基づく昇進を昇給に連動させることで教員に職能成長を促す教員給与システムである。しかし、このシステムもまた、教育制度全般に当てはまる大きな問題を孕んでいる。

私が理事を務めるNGOブログの「文部科学省汚職と競争的資金を、オバマ政権の経験から考える」という記事で、文部科学省が実施する競争的資金の問題点として、プロポーザルの評価基準が教育改善と結びつくのか判断が難しいという点を記述した。

だが、これはキャリアラダーにも同じことが当てはまり、どのような昇進要件を設定すれば教育改善と結びつくのか判断が極めて難しいという問題を持つ。

後者のメリットペイは、まさに大阪市が導入しようとしている教員給与システムである。最も古い教員給与制度が抱える問題に対して、キャリアラダーとは異なるアプローチを採っている。

キャリアラダーは教員を「事前」に評価する制度であったが、メリットペイは教員を「事後」で評価する制度である。

すなわち、学力テストの結果を教員給与に反映させることで、学力テストでより良い結果を出すことを教員に促すものである。

 

しかし、メリットペイにも三つの問題点が存在する。一つ目は教員の協働性の阻害である。教員の職能成長のカギを握るのは、教員間の連携である。

しかし、学力テストの成績を教員個々人の給与と連動させるため、とりわけこの教員評価を相対評価にした場合に、教員間の協働性が阻害される。

大阪市の場合、人事評価制度の中で人材育成という項目を設けることで協働性を促進する一方、評価の一部に相対評価を採用しており協働性を阻害してしまっている。

現状でもアクセルとブレーキを同時に踏むような、やや理解に苦しむシステムであるが、これに学力テストの結果を教員個々人の人事評価に連動させるということは、協働性に欠けるブレーキを一本増やすことにつながり、教員の資質向上に負の影響を及ぼす可能性が高い。

メリットペイの二つ目の問題点は不正行為である。メリットペイの運用方法は大きく分けて二つある。一つは、単純に生徒の学力テストの成績をもって教員を評価するもので、もう一つは、前年比での改善度合いをもって教員を評価するものである。

しかし、いずれの方法を採用しても不正行為が発生しやすい。例えば、成績の良くない生徒を当日欠席させる、ないしは学習障害児として扱うことで、教員が受け持つ生徒の平均点を簡単に上昇させることができるため、米国で実施されたメリットペイでは、このような不正行為が横行したことが確認されている。

メリットペイの三つ目の問題点は不公正性である。たしかに、古い教員給与制度は努力している教員が報われないという不公正性を孕んでいたが、メリットペイは困難校に勤務する教員が報われないという不公正性を持つ。

困難校では教員は自身が持つリソースの多くを学力以外の問題に支払う必要があるが、非困難校に勤める教員は自身の持つ教育リソースの多くを学力向上のためだけに割くことができる。

それ以前の問題として、遺伝や誤差項を除いた場合、子供の学力に影響を与える要因は、親の教育投資・地域社会による教育投資・学校(学校システムと教員)による教育投資・国による教育投資の4つに主に分類することができるが、子供の学力問題に対して教員がどれだけ責任を負うべきなのか全く考慮していないという問題点がある。

教育改善を目指すときに、どのアクターがどれだけどのような責任を負っていて、どのような支援を必要としているのかを明確にすることは教育政策の初歩中の初歩であるが、メリットペイシステムはこの初歩の時点で躓いているシステムである。