「カツ丼発祥の店」早稲田の最古のそば屋が、突如閉店した真相

学生街から次々と名店が消えてゆく
橋本 歩

他の老舗も、次々に…

閉店していく老舗は三朝庵だけではない。2018年には同じく老舗蕎麦屋の「長岡屋総本店」、2016年にはツンデレな店主が密かな人気だった洋食店の「キッチンエルム」、2014年にはタンメンが人気だった中華食堂「稲穂」が閉店するなど、ここ数年で、早稲田生なら誰もが知っていた老舗が次々と姿を消している。

特に、34年間営業し続けた「キッチンエルム」が閉店する際には、事前に閉店情報がSNSで拡散されたため、「最後にもう一度味わっておきたい」と客が殺到する事態になった。閉店当日には3時間待ちの行列ができたというから、どれほど愛されていたかがわかるというもの。

ところが、三朝庵と同様、この「エルム」も決して客が集まらないから店を閉めたわけではない。同店には「エルムの掟」なるものが存在し、水はセルフサービス、食べ終わった食器はカウンターに乗せる、グループで注文する際は同一メニューにするなど、客も協力して店を支える仕組みができていた。おかげで回転率も高く、むしろ儲かっていたというが、店主の山口勝見氏は「元気なうちに辞めたい」という理由から閉店を決断した。

 

同じく60年近く営業し続けた「稲穂」の閉店理由も客不足ではなかった。店主と一緒に店を切り盛りしていた長谷川正子さんは言う。

「主人は『死ぬまで店をやり続けるんだ』と言っていました。でも、その主人も数年前に体を壊してしまい、店を続けられなくなってしまったんです」

いずれの老舗にも共通するのは、決して売り上げ低迷や客不足から店をたたむわけではないという点だ。数多のチェーン店ができては消えてゆくなかで、早稲田の老舗は変化に耐え続けてきたのである。前出の「ランチハウストキワ」元店主、浜岡さんが言う。

「料理を出して、学生さんが帰る時に『ありがとうございました』って言うだけなら、ロボットだってできるでしょ。店の雰囲気も含めてサービスなんだから、こっちから学生さんに話しかけて居心地よくしてあげないとね。早稲田で長く続けてこられた店には、そういったサービス精神があると思うよ」

多くの学生やOBに100年以上、変わらぬサービスと居心地を提供し続けた三朝庵。早稲田の街からまたひとつシンボルが消えた。

(橋本歩・週刊現代記者)