中国政府の検閲に協力?グーグルが「邪悪になるな」の理想を捨てる日

ネット史に残る大転換かもしれない
望月 優大 プロフィール

「検閲版」検索アプリで中国再進出か

しかし、今回のスクープによれば時計の針はすでに巻き戻り始めている。2017年の春以降、グーグル内部で中国に再進出するための極秘プロジェクト「コードネーム・ドラゴンフライ(トンボの意)」が始動したというのである。

同年12月には、2015年に共同創業者のブリンとラリー・ページからグーグルCEOの座を引き継いだスンダー・ピチャイが中国で政府高官と会談。

現在までにすでに「Maotai」や「Longfei」という名の「検閲機能を備えたアンドロイド向け検索アプリ」が開発済みで、それらのアプリが現在中国政府による承認に向けたプロセスに入っているという。

今回の中国再進出にあたって、グーグルは、中国ベースと推測される企業とのジョイントベンチャーを通じてこれらのアプリを運営すると見られている。

グーグルは「Google」というブランド名を用いずにいわゆる「がわ替え」の検索アプリで中国市場への実質的な復帰を果たす形を狙っているのかもしれない。

〔PHOTO〕gettyimages

具体的な「検閲」の中身だが、中国政府による「グレート・ファイアウォール」が禁ずるウェブサイトを検索結果から排除し、同時に中国政府にとって「センシティブ」な検索キーワードの場合には検索結果そのものを完全に非表示とするということまでが含まれているようだ。

天安門事件や共産党に対する批判は当然検閲対象になるだろう。画像検索にも同様の検閲が適用され、中国政府が禁ずる人物の写真などが表示されないようにもなると報じられている。

ツイッターやフェイスブックのようなSNSへの検索エンジン経由のアクセスももちろん不可能、ニューヨークタイムズのようなニュースメディアも同様とのことだ。

 

巨大ネット企業群に対する不信感の高まり

さて、最近になって、グーグルやフェイスブックをはじめとするインターネット関連の巨大企業およびシリコンバレーを中心とするインターネット産業全体に対する不信感が示される機会が世界中で増加している。

一つの要因は、昨年明らかになったフェイスブックからケンブリッジ・アナリティカへの個人情報流出問題に象徴される、プラットフォームが集積した膨大な個人データの扱いに関する不信の高まりである。

フェイスブックを中心に、それらネットサービスが無料で利用可能であることと引き換えに、ユーザーの属性や行動に関するデータが悪用されたり、営利企業や政治勢力に対して(ときに不正に)販売されているのではないかということが懸念されている。EUによるGDPR(一般データ保護規則)の採択もこの流れのうちにあるだろう。

あるいは、そうしたデータの利用や販売にも絡みつつ、フェイスブックやユーチューブ、ツイッターが「フェイクニュース」や「ヘイトスピーチ」の拡散エンジンとして機能してしまっているのではないか、多様化する社会の内部に嘘や憎悪を撒き散らすことで分断の火種に油を注いでしまっているのではないか、そんな懸念も広がっている。

さらに、周知の通り、グーグルやアップル、アマゾンなどによるタックスヘイブンを用いた大規模な「租税回避」についての懸念も長年にわたって指摘され続けてきた。各国政府の税務当局は、どうにかして巨大ネット企業に対して課税の網をかけようと現在も苦心しているだろう。

そして今回、これらインターネット産業のスター企業群に対する様々な形での不信感の高まりという文脈の中で、自由な言論に対するコミットメントの象徴であった「グーグルの中国撤退」が過去のものとなり、むしろその高度な技術力が再度「検閲」のために活用されるかもしれないという事態が報じられているわけである。

このように一つひとつバラバラに報じられる事象群をひと連なりの流れの中で見ることによって、今回報じられたグーグルの動きの同時代的な意味合いもより把握しやすくなるだろう。