「あおり運転」「危険運転」に遭遇しても、絶対やってはいけないこと

「ロードレイジ」から身を守るために
安藤 俊介 プロフィール

ロードレイジと性格は関係がある?

警察庁は今年6月、初めて「あおり運転」の一斉取り締まりを行った。すると、開始からわずか一週間で、1088件も摘発された。

悪質な事件が続発していることを受けて、警察もついに本格的に取り締まりを始めたわけだが、この摘発数を見ると、近年いきなり「あおり運転」が急増したのではなく「これまでは『あおり運転』は犯罪であると認識されていなかっただけ」であることがわかる。

「ロードレイジ」の概念が一般的に知られるようになったのは、1970年代のアメリカと言われている。きっかけとなったのが、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督のデビュー作『激突!』(1971年)だ。

 

主人公はごく普通のセールスマン。小ぶりのセダンで交通量の少ないハイウェイをひとり走っていると、異様にゆっくり走る巨大なトレーラーに出くわす。彼は不審がりつつもトレーラーを追い越すのだが、抜き去った瞬間、なぜかトレーラーは猛スピードで抜き返してくる。そこから、執拗に追ってくる正体不明のトレーラーと主人公の命がけのカーチェイスが始まる…そんな筋書きの映画である。

本作の大ヒットをきっかけに、アメリカでは危険運転を指す言葉として、ロードレイジが人口に膾炙した。以来、車社会のアメリカでは、ロードレイジの加害者に対して裁判所がアンガーマネジメント講座の受講を命令することが珍しくなくなったほか、ロードレイジに関する学術的知見も数多く蓄積されてきた。

その結果判明したのは、「ロードレイジを起こすドライバーには若い男性がやや多い」「走行距離や道路の混み具合も影響しているとみられる」といった一般的傾向がある一方、「ドライバーの性格といった個別要因からは、ロードレイジを起こしやすいかどうかは説明できない」という事実だ。

Photo by iStock

2016年、40年もの長期連載を終えた人気マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治著)に、本田という白バイ警官が登場する。彼は普段は温厚なのだが、バイクに乗ると性格も顔も言動も一変し、凶暴な一面を見せるというキャラクターだ。

現実世界にも本田のように、ハンドルを握った瞬間に横柄になったり、言葉づかいが荒くなったりするドライバーはいるように感じられる(もっとも、本田は実は元暴走族総長という設定)。その一方で、「自分はそこまで性格が変わるわけじゃないから、大丈夫」と思っている人が大半だろう。

しかし実際には、ロードレイジは性格や人格に起因するものではない。ハンドルを握る人ならば、誰もがいつ陥ってもおかしくない。自分では気づいていなくとも、そもそも車に乗るだけで、人は歩行者として道を歩くときよりもはるかに攻撃的になっているのである。

追い越し、割り込み、クラクション、幅寄せ、ウインカーを出さない、ハザードを出さない…こうした運転を他の車にされると、たとえ客観的には些細なことであっても、ドライバーには「自分への攻撃」や「悪意のある運転」であるように感じられてしまう。

激昂して他の車を追いかけ回すドライバーを「がらが悪い」と揶揄する人もいるが、ちょっとしたきっかけでロードレイジに火がつき、それが連鎖して大きな事故につながるケースは、誰にとっても決して他人事ではないのだ。

ロードレイジに性格は関係ないが、車の大きさや値段、ランクは関係があると言われている。直感的にもわかる通り、高級車であったり、大型車を運転している時のほうがロードレイジに陥りやすい。車の価値や運転のうまい下手を、ドライバーは自分の価値だと錯覚してしまいがちだ。

たとえば通り魔事件の犯人が、ターゲットを「誰でもよかった」と供述することがしばしばあるが、実際には彼らも「本当に誰でもいい」とは考えていない。屈強な男よりも、力の弱い女性や子どもを選んで狙うケースのほうがはるかに多いのがその証拠である。

つまり人は、無意識に周りの人間を値踏みしている。そうした傾向は、運転中にはより顕著になる。相手が軽自動車やバイクであれば何をしても構わない、と考えるドライバーが出てくるのも、残念ながら無理からぬことかもしれない。