石原さとみが「女子力の権化」からフェミニストになった瞬間

『アンナチュラル』で革命が起きた
西森 路代 プロフィール

『失恋ショコラティエ』で女子力の権化を演じた石原は、同作と同じ年、2014年に『ディア・シスター』に出演する。前作の反動からか、妹キャラで誰からも愛されて育ったが、どこかやさぐれた雰囲気を持つ、無職で奔放な桜庭美咲を演じた。

本作は、真面目で不器用な姉(松下奈緒)と、奔放で愛されキャラの妹の対比と姉妹の情を描こうとした作品だと考えられる。同年に大ヒットしたディズニー映画『アナと雪の女王』の影響を受けたWヒロインものだとも言われる。

『アナ雪』では“真面目で不器用な”姉のエルサが、「ありのーままでー♪」と歌う。その歌詞から「女性に対する抑圧と、そこからの解放」というフェミニズムの考え方が、同作のヒットをきっかけに徐々に定着していったようにも思える。

しかし、『ディア・シスター』は、「姉妹もの」という『アナ雪』の外見を借りてきただけで、その思想を深いレベルで表現できていたとは言いづらい。つまり、この時期の石原はまだ第二形態にいると考えられる。しかしその4年後、彼女の役は一変する。それまでの抑圧を振り切るかのような変貌を遂げるのだ。

 

『アンナチュラル』という革命

石原の役が、明確に「第三形態」へと脱皮したのが、2018年の『アンナチュラル』だ。本作で演じた法医解剖医の三澄ミコトというキャラクターは、フェミニズムの考え方を「当たり前」のものとして持っている。

TBSのサイトより

ミコトは、これまで石原が演じてきたキャラクターとはまったく違う。彼女は、ドジっ子でも、明るく健気なキャラクターでも、女子力が発揮する威力を信じてそれを身に着けようとしているわけでもなく、静かで落ち着いた女性である。

そして、「女性だから」という視線を向けられれば、愛想や愛嬌でその場の空気を悪くしないよう気を遣うのではなく、空気を乱そうがなんだろうが、きちんと言葉を用いて違和感を表明することができる。

ミコトがある事件の証人を依頼された際、担当検事が、彼女が若い女性なのを見て「助手ではなくて?」「女性だとは……」と言うシーンがあるが、ミコトは、落ち着いた口調で「女性で、何か問題でも?」と言える。

また、検事から「余計なことは考えてくださらなくて結構、まとめを参考に、聞かれたことだけを答えてください、それくらいはできますよね」と舐めた発言をされれば、あからさまな不服の表情で応じる。

こんなシーンもある。同僚の東海林夕子(市川実日子)が合コンで昏睡状態になりホテルに連れ込まれるという事件が起きる。その後、男性刑事から「よく知らない男と酒を飲んで酔っ払う方にも問題がある」と言われるが、ミコトは「女性がどんな服を着ていようが、お酒を飲んで酔っ払っていようが、好きにしていい理由にはなりません。合意のない性行為は犯罪です」と、決然と反論する。

石原の出演作品を延々と見返してきた筆者は、ついに石原が、女性蔑視の言動に対して、明確に違和感を持ち、決して作り笑顔でやりすごすことのないキャラクターへと変貌を遂げたことに深い感慨を抱いた。

しかもミコトは、自身が勉強してきたことを存分に生かすことができている。女性である自分が仕事ができると周囲の雰囲気を悪くするのではないか…といった余計なことは気にしない。自分を低く見せたり、親しみやすさを演出したり、「女子力」を発揮しなければと考えることもない。

疑問を感じたらちゃんとそれを表明してもいいし、結婚していないからといって他の女性に負けたと感じることもない(合コンばかりしている同僚の東海林には「結婚することで女性として勝ちたい」という意識はないことが示唆されるし、それを見たミコトも「人にはそれぞれの考えがある」と認めるだけだ)。

最終的に恋愛で救われるような結末も迎えない。ドジをしてテヘっとなるシーンもない。

それはすべて、これまでの石原、いや彼女だけでなく、長らく多くのヒロインに求められてきたキャラクターを覆すものであった。

2018年、つまり今年は、海外からの影響を受け、日本でも「#MeToo運動」が活発になった年である。もちろん、まだその意味が広く周知され、効果が出ているとは言い難いかもしれない。しかし、「女性が反論をしてもいい」「抑圧を振り払ってもいい」という考え方が浸透してきたとは、確実に言えるだろう。

ミコトは、そんな時代を背負って生まれたキャラクターだった。