「アレが思い出せない!」最大の理由、「2つの記憶」の正体

「心理学の記憶モデル」を一気に解説!
海保 博之 プロフィール

表現するときに頭の中で起こっていること

表現活動が発生しているときは、短期記憶内で、3つのことが行われている。(1)構想を練っては表現システムへ変換し、(2)その結果を評価して、(3)もっといい表現を考えたり、あるいは構想を練り直したりする。この3つの過程は、あたかも同時に起こるかのように、限られた容量しかない短期記憶の中で発生している。

いずれの過程も、長期記憶の中に貯蔵されている膨大な知識を存分に活用して実行される。したがって、よりよい表現ができるかどうかは、この知識の量と質にも強く影響してくる。

  表現過程の情報処理モデル(ヘイズとフラワーの図簡略版)

記憶が表現とどのように結びつくのか、たとえば文章を書くことを考えてみる。

書きたいことが思い浮かぶと、それに関連する知識が総動員される。それを文章にするためには、文字、語彙、文法、音韻についての知識が使われる。また、誰にそれを伝えるかによって、使うことばや文体を変えなくてはならない。書き出した文章が正しいかどうかをチェックするためにも、また種々の言語的知識が必要になる、という具合である。

いかに膨大な知識(長期記憶)が、1つの行為のために使われているかが想像できるはずである。

表現をするとき、この両方向の情報の転送がスムーズに行われないと、どうにもならない。前に書いたことが長期記憶に転送され、それに触発されてまた新しい知識が短期記憶に転送されて処理されることが、たえまなく繰り返されるのである。うまくいかないと、支離滅裂な文章や話になってしまう。また、どうしてもうまく表現できないとイライラするのである。

「思い出せない」しくみ

思い出せないということがしばしば起こるのは、長期記憶から情報が消失してしまったからではないかと思われがちだ。しかし、そうではない。本棚から目的の本が引き出せないのと同じで、ただそのときにうまく引き出せないからだとする検索失敗説が有力である。

【写真】思い出せないのは本が探し出せないようなものiStock

すっかり忘れてしまったと思っていた情報も、何かの拍子にふと頭に浮かんでくることを、しばしば経験することがあるはずである。あるいは、20年、30年も昔の子供の頃のお祭りや学校での情景などをまざまざと思い出せることもある。

貯蔵期間が永久だとすると、長期記憶には情報がたまる一方で、すぐに容量が一杯になってしまうのではないかと心配になる。しかし、長期記憶での情報の貯蔵は、本棚や倉庫でのそれと違って、不変ではない。

使わなければ次第に奥の方に追いやられたり、ある情報とある情報とが一緒に使われる機会が多いと、お互いに近いところに移動したり、圧縮されて1つにまとめあげられたり(体制化されたり)、というように、貯蔵の状態をたえまなく変えている。

こうすることによって、容量の制限を克服し、短期記憶からのさまざまな要請に対して、即座に、しかも適切に答えられるように準備しているのである。かくして、長期記憶で保存できる情報の容量はほとんど無限と考えておいて差し支えない。

短期記憶長期記憶のやり取りがうまくいかないと何が起こるか、病態とも言えるものから、身近にありがちな例まであげてみる。

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