2014年、60人もの被害者を出した御岳山の噴火。薄手のテント持参していたか否かなど、登山時の危機意識の差が被害の差を分ける面もあった Photo by Getty Images

山登りで遭難→救助されたら、一体いくら支払わなければならないか

山岳保険と税金の驚くべき事情

あぁ、やっちまった……空が青いなぁ。地面に倒れながら、ふと自分の左足を見ると、膝が内側に倒れているのに、登山靴の先は真逆の左外を向いていた。

登山と駅伝をこよなく愛する編集者・花房麗子。GWにオーストラリア・エアーズロックを訪れたものの、下山後に自転車で大転倒、左足を骨折した。海外で怪我をするととんでもなくお金がかかる体験をしてから3ヵ月――ギプスは外れたものの、まだまともに歩けず、登山復活の目処は立っていない。

本来ならば山登りシーズンどまん中の夏。体がうずき、せめて日本の山登り事情を取材してみることにした。するとそこには、驚きの「山岳遭難費用」の現実があった―—。

オーストラリア・エアーズロックの麓で骨折し手術、帰国の飛行機を待つ筆者。奥にはアボリジニの女性がいて、彼女は無償なのだという 写真提供/花房麗子

平成29年の山岳遭難者は過去最多

警察庁の統計「平成29年における山岳遭難の概況」によると、昨年(平成29年)の山岳遭難の発生件数は2583件、遭難者3111人。件数も遭難者数も統計の残る昭和36年以降で最多という。今年に入っても、山の事故がたびたびニュースになっている。

今までに私も、山小屋から大量のザイルを体に巻いて早足で出ていく救助隊員の姿や、目の前の谷筋でホバリングするヘリの中に吊り下げられた担架が収容されていく様子を見たことがある。ともに歩いているガイドの方から、落石が直撃して息ができなくなり危うく死にかけた話を聞いたりもした。

高尾山に始まって、筑波山、丹沢、そしてアルプスの山々――次第に百名山でも難しい山にチャレンジするようになると、さすがに「自分だけは大丈夫」、であるはずはないことがなんとなくわかってくる。そこで山岳保険は年間カバーの保険に入るようにしていた。

だが、その実際の使われ方は、全然知らなかった。

 

今年3月21日、もう桜も咲きかけていた東京で雪が降ったことがあった。前日から「明日の春分の日は、珍しく東京は雪になるでしょう」と予報されていたが、SNSの呼びかけで集まった13人が悪天候の奥多摩山中で道に迷い遭難。翌22日に幸い全員が無事に救助され、うち骨盤骨折した中国人女性を含む7人がヘリで救助された。

このことを報じたニュース番組で、ヘリがホバリングする様子を見ながら、私は「あぁ、遭難したのは中国人グループだったのか。じゃあ保険に入ってないかもなぁ。救助ヘリの代金は高いんだろうな」とぼんやり思っていたのだ。

ここで皆さんに質問したい。

遭難者たちは、救出された時、いくら支払っているかご存じだろうか?

——答えは「0円」。たとえ救助ヘリが飛んでもタダなのだ。

別に遭難者が保険に入っていなかった中国人だったからではない。山岳保険に入っているあなたでも私でも同じことだ。