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日本版司法取引でえん罪は増える?不適切な法科学が用いられる危険性

制度開始から3ヵ月、3つの課題がある

日本版「司法取引制度」開始から3ヵ月

今年6月1日に、日本版の司法取引制度(協議・合意制度)の運用が開始された。7月にはすでに適用事例が生まれている。

この制度は、伝統的に米国で行われている、自らの犯罪を供述することで刑の減免を受ける「自己負罪型」ではなく、共犯者などの犯行に関する情報を提供すれば、その見返りに検察官が求刑を軽減したり、起訴を見送ったりすることなどが可能となる「捜査・訴追協力型」の司法取引を認めるものである。対象は組織犯罪や経済事件に限られている。

この制度に関しては、衆議院法務委員会での審議も公開され、新聞・テレビ等で多数の報道がなされ、またネット上でもさまざまな議論が行われている。

そこでは、虚偽の情報によって無実の第三者が巻き込まれ、新たなえん罪が生まれる危険性を危惧するものもある。

逆に、弁護人が関与し、合意書が作成され、虚偽供述への処罰規定もあることから、そうはならないという主張もある。

筆者は司法の専門家ではなく技術畑の人間であるが、いくつかのえん罪事件の調査に関わり、「えん罪救済センター」代表としてえん罪を訴える方々からの声に触れてきた。

また米国や台湾のイノセンス・プロジェクトを通じて、海外の司法制度改革の情報を得てきた。

その経験・知識で考えれば、現在の日本の司法制度・文化が持つ、1)えん罪防止にむけた議論の場の欠如、2)証拠よりも自白を重視する取り調べ、3)不適切な法科学が用いられる危険性、という課題に対して十分な対策が取られない限り、日本版司法取引の導入によって新たなえん罪が増える可能性は十分にあると考えている。

以下では、日本版司法取引とえん罪と可能性について、この3つの課題から、筆者なりの考えを述べてみたい。

 

えん罪防止にむけた議論の場の欠如

米国や台湾では、DNAの再鑑定を求める権利が法律で保障されるなど、えん罪を繰り返さないための司法改革が進んでいる。

その司法改革の原動力としてイノセンス・プロジェクトという活動が大きな影響力を持っている。

イノセンス・プロジェクトは、DNA鑑定などの科学的証拠を元に、えん罪原因の究明、再検証やえん罪被害者の支援を無償で行う団体である。

1992年に、弁護士のB・シェックとP・ニューフェルドによってニューヨークに設立された。現在は全米の全州に同様のプロジェクトが設立されている。

同プロジェクトのホームページによれば、米国では、DNA鑑定によって358人のえん罪が明らかにされた。そのうちの20人は死刑判決を受けた人、さらにDNA鑑定で155人の真犯人が見つかっている。

また、同プロジェクトのホームページでは、えん罪の原因として、動機付けられた情報提供者(つまり司法取引)、不適切な弁護、間違った法科学、虚偽自白、目撃証言などがあると紹介されている。

プロジェクトの協力者B.ギャレット教授によれば、DNA検査で覆された有罪判決の15%は、司法取引による証言が原因である。