美味しいパンを焼いてみたい、と思う人にハードルとなるのは、発酵という手間と時間。何度もこねたり力加減を調整したり、発酵具合のコントロールが難しくて、手を出しかねている人も多いのではないでしょうか。
この発酵という手間がないパンはないものかと、『パンの科学』の著者、吉野精一さんにお聞きしたら、ソーダブレッドというものを教えてくれました。
発酵しないで生地が膨らむしくみ
パンを発酵させて作る、その主な目的は生地を膨張させること。では、発酵させずに作るパンというのは、どのようなものかというと、膨張源にベーキングパウダーを使用する。
例を挙げると、スコットランド地方のスコーン、イングランド地方のクランペット、アイルランド地方のアイリッシュソーダブレッドなどがあり、総称としてソーダブレッドと名づけられている。

イーストのアルコール発酵による生地を膨らませたパンに比べて、食事用よりはおやつに最適なものであるが、手軽に焼けて楽しめる。発酵パンと違い、短時間で簡単に製造可能なことが魅力で1800年代後半に広まった。
ベーキングパウダーの主原料である重曹(炭酸水素ナトリウム:NaHCO3)を使い、加熱により生じる炭酸ガス(CO2)で生地を膨張させる。
熱により、このような反応がおこり、生成される炭酸ナトリウム(Na2CO3)の独特の「匂い」と「苦味」がソーダブレッドの風味の中心となる。
ちなみに、パンのイーストによる発酵では、以下のような化学反応がおこっている。
この反応は、ワインやビールなどの製造工程の発酵でおこる反応と共通である。
クランペットやスコーンの生地には、強力粉ではなく薄力粉を使い、水分の配合は少なめで、できるだけグルテンを作らないよう軽く混ぜ合わせる。そして空気をたくさん含んだ、比重と粘度の低い生地にする。これは発酵の力がなくても膨張できるようにするためである。
このようにして、クランペットやスコーンの、表面がサクッと歯切れが良く、中身がややしっとりとした独特な食感による美味しさができるのである。
吉野さんに教えてもらった、発酵の手間を省いたパンのレシピをふたつ、ご紹介しよう!