カレイの目はなぜ2つとも右側にあるのか

ついダマされそうになる進化論批判のトリック
更科 功 プロフィール

質問の前提は何か

「自然選択の作用で、どのようにして複雑な形質が進化するか」という質問にはいろいろな前提があり、その前提が異なれば質問の意味も異なる。したがって、この質問に正面から答えられるケースもあるが、正面からでは答えられないケースも確かにある。そのために、この質問は、約150年間も生きながらえてきたのだろう。

「自然選択の作用で、どのようにして複雑な形質が進化するか」と聞かれて、無意識のうちに仮定してしまう前提は、たいての場合「自然選択によって (1) 成体における (2) 1つの機能をもつ (3) 1つの形質が (4) 変化する」ということだろう。

もちろん、これらの前提がすべて成り立つ条件のもとで進化する形質もある。でも、これらの前提が成り立たない条件で進化する形質もあるのだ。後者の場合に、これらの前提を無意識のうちに認めてしまうと、自然選択によって複雑な形質が進化することが不思議に思えてしまうのだ。

とりあえず、これらの前提が成り立つ場合を考えてみよう。たとえば、あまり複雑な形質ではないが、鳥の足の水かきだ。アヒルやガチョウの足の指のあいだには、水かきがある。これが泳ぐための適応であることは明らかだろう。

ところで、グンカンドリは海の上を飛んで魚などを食べるけれど、水面には下りない。水面ギリギリまでは下りてくるが、常に飛びながらエサを取る。そのため、グンカンドリの指のあいだの水かきは、えぐれて小さくなっている。

【写真】ガチョウとグンカンドリ
  ガチョウ(Domestic goose)とアメリカグンカンドリ (Fregata magnificens) photo by gettyimages

おそらくグンカンドリも、昔はアヒルのように水面を泳いだのだろう。しかし、今では水かきを使わなくなったので、退化している途中なのだと考えられる。

この場合は、さきほどの4つの前提がすべて成り立っているので、自然選択で進化(退化も進化の一部だ)していることが直感的にもわかりやすい。「自然選択によってグンカンドリの(1) 成体における (2) 泳ぐという機能をもつ (3) 水かきという形質が (4) 変化している」わけだ。