失業率の改善と自殺者の激減が示す、日本経済「明確なひとつの答え」

過去を引きずる中高年、前向きな若者
竹中 正治 プロフィール

高度成長期やバブル景気の経験を引きずる中高年

さてここで冒頭の問題、「あなたは景気回復を実感していますか?」と尋ねると8割もの人々は「あまり感じない」あるいは「全く感じない」と答えるアンケート調査結果と矛盾する、もうひとつのアンケート調査結果を紹介しよう。

これは内閣府がほぼ毎年行っている「国民生活に関する世論調査」の1項目であり、「あなたは現在の生活にどの程度満足していますか」と問うものだ。図4がその結果の長期推移である(この調査項目は1992年から)。

図4

これを見ると、「満足している」と「まあ満足している」との回答の合計比率は、90年代後半から低下するが、ITバブル崩壊と銀行の不良債権危機の最終局面だった2003年の58.2%を底に上昇傾向を辿り、リーマンショックで景気後退期となった2008~09年にいったん下がる。そしてそこからまた上昇トレンドになり、2017年調査では73.9%と当該質問項目が開始された1992年以降では最も高くなっている。

当然ながら「不満」と「やや不満」の合計比率は、それと対照的な推移となっており、2017年時点では25%と調査項目開始の92年以来、最も低い水準近辺にある。

似たようなアンケート調査なのになぜこれほど逆の結果が出るのか。おそらく前者の調査で「景気の回復」というと中高年層を中心に非常に強い好況をイメージする人々が多いからではなかろうかと思う。

例えば私(60歳)と同世代かそれ以上の高齢者は1950年代から70年代初頭までの高度成長期(平均実質GDP成長率で10%強)の記憶が心に焼き付いている。

50歳台、40歳台でも1980年代後半から90年代初頭のバブル景気の記憶が強く残っており、「景気回復」というとその頃の記憶、つまり賃金が毎年どんどん上がり、売り上げも2桁パーセントで伸びるような状況を無意識のうちにイメージし、判断の基準となる参照点が上がってしまうのではなかろうか。

 

ポストバブルの若手層は現状の改善にポジティブ

しかし日本経済の成長率は1990年代に下方屈折しており、往時のような成長率には戻らない。

それでも景気の回復と後退の循環的な波は起きている。政府でも民間でも、エコノミストは成長率の絶対的な高低とは別に、そうした循環的な変化に注目して「回復期」「後退期」と言っているわけである。

ところが、一般の中高年以上の人々は自分が経験した過去の景気が良かった時の記憶に照らして判断する結果、「景気回復を感じない」という回答をする人が多数派になるのではなかろうか。

一方、「国民生活に関する世論考査」の「あなたは現在の生活にどの程度満足していますか」という問いは、むしろ現在の満足感、不満足感に焦点を当てる問いになっている。

失業、リストラ、賃金カット、あるいは事業破綻などに直面している人々が減れば、当然ながら不満足派は減り、満足派が増える。

それでも過去の記憶との比較が全く影響しないわけではない。実際、世代別に満足・不満足度の分布を見ると、18~39歳の若手層の満足度が相対的に高く、50歳以上の中高年層の満足度が低い結果が出ている。

しかも時間の経過と伴にバブル景気も経験していない新世代が増えるので、満足度は循環的な変化とは別に、趨勢的にも緩やかな低下傾向にあるのかもしれない。

興味深いことに、こうした世代間の認識の違いは、総じて若手年齢層で安倍内閣の支持率や選挙での与党候補支持率が高く、高年齢層では反対に支持率が低いという政治意見の世代間分布とも一致するようだ。

経済面でも政治面でも、ポストバブル時代の若手層を中心に、それ以前の旧世代とは異なる意識層の台頭を感じる。

左派系野党諸兄姉もこうした点を見誤ると、既に70歳前後となった日本の団塊の世代と共に黄昏を迎えることになるかもしれない。