失業率の改善と自殺者の激減が示す、日本経済「明確なひとつの答え」

過去を引きずる中高年、前向きな若者
竹中 正治 プロフィール

ただしこのような相関関係の存在は、失業率と自殺率の関係性を示すのみであり、因果関係それ自体を意味するわけではない。そこで厚生労働省の調査データに基づいて、自殺の原因・動機別分布とその変化を見てみよう。

まず自殺率が直近のピークだった2009年と2017年について原因・動機別で自殺者数を見ると、「健康問題」と「経済・生活問題」が大きく減っており、自殺率の減少に最も寄与しているのがわかる(図3)。

図3

さらに男女別に自殺の動機を見ると、男性の場合は原因・動機の一番である「健康問題」(43%)に次いで「経済・生活問題」が第2位(21%)、第3位は「勤務問題」(12%)である。一方、女性の場合は「健康問題」が圧倒的で(64%)、「経済・生活問題」は6%、「勤務問題」は3%に過ぎない。

さらに失業と自殺の関係を考える上で重要な事実は、自殺者の6割弱は無職者(57.6%、2017年)であることだ。

エコノミストである私には「健康問題」による自殺が減っている原因はよく分からないが、失業や倒産増減が「経済・生活問題」に直結していることは明らかだろう。

したがって、失業増(減)→自殺増(減)という因果関係が男性の場合に強く、しかも男性の自殺率は女性の約2倍であるという2つの事情から、失業率と自殺率の間に高い相関関係が生じていると判断してまず間違いなさそうだ。

 

なぜ男性は失業して自殺するのか

では、なぜ男性は職を失うと自殺する傾向があり、女性はそうではないのだろうか。

ここからは推測である。女性の労働参加率も高まり、かつては30歳台から40歳代の女性が労働市場から退出してしまういわゆるM字型と呼ばれた日本の労働市場の特徴も、他先進国に比較してかなり解消されて来てはいる。

それでも夫婦2人の家庭では妻の労働はパートなど非正規雇用が多く、主たる所得は正規雇用である夫の稼ぎに頼っている家庭が多いのが現実である。 

あるいは独身男性でも、学校を卒業した男性が職に就けずにいれば、親兄弟や世間の見る目は女性の場合よりも厳しい。

さらに言えば経営者として事業に失敗して借金返済に追われるようなケースも、未だ男性の比率が圧倒的だろう。

そういう意味では失業、無職で「稼ぎがない」場合、男性は女性よりもずっと厳しいストレスに晒され、無力感や憔悴に苛まれ、あるいは人間関係上も孤立し、自殺を選ぶケースが多いのだろう。

そう考えると納得できる。自殺というのは人生における最も不幸な事態だろう。それが雇用の増加を伴う失業率の低下で大幅に低下していることは、まぎれもなく経済環境の改善の結果である。