イルカはしゃべるし、モノマネもする!

言葉を覚えたシロイルカの「超」能力
村山 司 プロフィール

言葉を覚えるとはどういうことか

さて、筆者はシロイルカ(ベルーガ)を用いて、イルカの言語理解に関する研究をしています。そのさわりの部分は、前述の『海に還った哺乳類 イルカのふしぎ』で紹介していますが、少しおさらいしてみましょう。

イルカにどうやって言葉を教えるか――。

それには、私たちが英語を覚えたときのことを思い出してください。まずは単語から覚えましたよね。

リンゴを見れば「apple」というスペルを覚え、また、appleというスペルを見たら「アップル」と発音します。そして、「アップル」という発音を聞いたら、丸くて赤いリンゴを選ぶ……。

こうしたことができたとき、はじめてリンゴについて単語を覚えたということになりました。同じことをイルカでもやってみたわけです。

まずは名詞から教えました。

対象とした個体は、鴨川シーワールドで飼育されている「ナック」という名前のシロイルカです。シロイルカは北極海からベーリング海、オホーツク海などのほか、カナダ沿岸の冷たい海域に生息している全身が真っ白なイルカです。さまざまな鳴音を発することから、「海のカナリア」ともよばれています。

  シロイルカのナック 撮影:岡田康且

このシロイルカのナックに、ふだんから見慣れているフィン、マスク、バケツ、長グツの4つの物について、それぞれの物に対応する記号、対応する鳴音を決め、それを学習させました。すなわち、フィンには記号「⊥」と「ピィ」という音、マスクには「R」と「ピィーーー」という音、バケツは「>」と「ヴォッ!」という音、そして長グツは「O」と「ホゥ?」という音をそれぞれ対応させ、学習させたのです。

【写真】学習中のナック
  単語を学習中のナック

さらに、音についてはその逆の「音を聞かせたら対応する物を選ぶ」ということも訓練しました。

ほどなくナックは、これらの関係を学習することができました。つまり、「物→記号」、「物⇔音」の関係を理解したのです。

ヒトと同じように言葉を覚えたナック

さて、ここからは前述の拙著には書かれていない、最新の研究です。

「物→記号」、「物⇔音」の関係を覚えたナックに、突然、テストとして、

「記号を見せて対応する物を選べるか」
「音を聞かせて対応する記号を選べるか」
「記号を見せて対応する音で鳴けるか」

ということを実験しました。すると、高い正解率で成功したのです。

【図】ナックが習得した言葉たち
  ナックが習得した言葉たち。訓練した白矢印の関係だけでなく、まったく学習していない赤矢印の関係も理解した!

すなわち、図の白矢印は訓練して理解させたところですが、その関係を訓練しただけで、なんの訓練もしていない赤矢印の関係までも理解できたのです。これを「刺激等価性」といいますが、一部の関係だけ習得させると、それを応用して、教えてもいない他の関係も自発的に理解できたことを意味しています。

このことは、言語を覚える重要な要素で、私たちが言葉を身につけるときにもはたらいています。

他に言葉の研究をしているチンパンジーやボノボなどの霊長類では、主に物を図形文字という視覚刺激で理解させ、オウムは物と聴覚の関係で言語訓練をしています。これに対して、ナックは視覚で理解したことを聴覚で表出する(またはその逆の関係)ことができ、異なる感覚系(cross-modal)を介して、単語の理解をしたことになります。

これは他の動物では例のない成果で、イルカが、ヒトと同じような言葉の覚え方ができることが示されました。

こうしてナックは、4つの物について名詞を理解できました。