「石破を叩きのめす」安倍首相の執念と、菅官房長官の「ある野望」

自民党総裁選・暗闘の全内幕
戸坂 弘毅

一方の安倍は、親しい永田町関係者にたびたび「首相を辞めたら、清和研(=現細田派)の会長として残りの政治家人生を気楽に楽しみたい」と漏らしてきた。当面、清和研には総裁候補がいない。最大派閥の長として、他派の総裁候補を担いで当選させ、恩を売って「院政」を敷きたいと考えているのだ。

その最有力候補が岸田だ。気心が知れていて、寝技が苦手な岸田であれば操縦しやすい――そう考えた上でのことなのは言うまでもない。

果たして岸田はどう出るのか。安倍や菅が固唾を飲んで見守っていた中、岸田は7月24日、立候補見送りと安倍支持を表明した。ぎりぎりで安倍陣営に駆け参じた形だ。安倍をイライラさせた末の参陣で、岸田が希望通りに党3役などの重要ポストに留まれるかどうかは微妙である。

 

さて、「大差」で勝てるのか?

現在、安倍の最大の懸念は、今度の総裁選から重みを増す党員票の行方だ。

内閣支持率は回復傾向にあり、各マスコミの世論調査では、自民党支持者における安倍の支持率は石破を大きく引き離してトップだ。とはいえ、森友学園や加計学園の問題への対処の仕方に国民の視線はなお厳しく、長期政権による「飽き」もある。

安倍は、数か月前まで「前回は党員票で石破にかなり負けたが、今度は負けることはない」と自信を示していた。石破に党員票で負けた12年総裁選には、安倍が所属する清和研から当時会長だった故・町村信孝も立候補したため、派閥が持っていた各種団体票はほとんどが町村に流れた。しかし現職総裁として臨む今度は構図が根本的に異なるから、大丈夫だと高をくくっていたのだ。

だが、ここに来て「地方党員の間に、安倍に厳しい声が多い」との情報が数多く寄せられるようになり、安倍は細田派の議員らに対して党員票獲得でハッパをかけている。

その地方の党員票獲得に関しても、菅は、官房長官という激務にありながら手を打っている。当選4回以下の菅に近い無派閥議員らで作る「ガネーシャの会」の会長で、総務副大臣の坂井学らに対し、「首相か私が出向くから」とそれぞれの地元で安倍支持を広げるため会合をセットするよう要請しているのだ。

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安倍圧勝に向けて邁進する菅の姿に、自民党内では「今回、安倍が大差で勝つことは、その後を安倍政権を支えた菅が引き継ぐ環境を整備することにもなる。それで菅は必死なのだ」と見る向きもある。

石破、岸田、野田…「ポスト安倍」候補たちが戦闘力不足を露呈した今回の総裁選。小泉進次郎ら次世代へのつなぎ役として、菅が次期首相候補に躍り出るのか。それに向けて菅は、総裁選で安倍三選が決まるであろう今年9月以降も官房長官に留まるのか、それとも幹事長への転出を強く望むのか。

安倍政権が「最後の3年」に突入するこの9月以降は、安倍と菅の関係こそが政界の流れを読む鍵となるだろう。(戸坂弘毅 ・ジャーナリスト、文中敬称略)