「石破を叩きのめす」安倍首相の執念と、菅官房長官の「ある野望」

自民党総裁選・暗闘の全内幕
戸坂 弘毅

「出てもらったほうがいいじゃないですか」

「岸田さんには出てもらったほうがいいじゃないですか」。6月の安倍・岸田会談の様子を安倍から伝え聞いて突然言い出したのが、官房長官の菅義偉だ。

すでに細田・麻生・二階の主流3派は押さえた。ここに、いまや「菅派」と言われる無派閥議員を加えれば、勝利は揺るがない。無理に岸田を押し止める必要はない、というのだ。

「そうは言ってもなあ…」。その時はなお岸田の支持を得たいとの考えを示した安倍だが、確かに石破との一騎打ちになれば、安倍を嫌う票はすべて石破に集まり、石破が有力な総裁候補として生き残る可能性が高まる。

安倍サイドにあえて立候補を期待する向きもあった野田聖子には、支持の広がりが見られず、20人の推薦人の確保は絶望的だと見られている。安倍に近い細田派の議員は「数人(の推薦人)を野田に貸せば出られるという状況ではない。それに昔の派閥とは異なり、今や派閥領袖といえども所属議員に『野田の推薦人になってやれ』と無理強いできる時代ではない」と解説する。

そのため、安倍も7月に入る頃には、「岸田さんが立候補して反安倍票が分散することは、私にとって悪い話ではない。菅ちゃんの言う通りだ」と漏らすようになっていた。

 

菅にとって「政治家人生で一度のチャンス」

ただ、岸田の立候補を望んだ菅には、単に「安倍を助けたい」という意図とは異なる思惑があったことは間違いない。「岸田の立候補が、自らの将来にとってプラスになる」との冷徹な計算があったのだ。

菅はかねてから安倍が岸田を重用し、禅譲を仄めかしてきたことを快く思っていなかった節がある。

安倍と岸田は同じ二世議員の当選同期で、若手議員の頃から気の置けない遊び仲間でもある。そこに菅が入り込む余地はない。

一方、菅は当然のことながら、安倍政権終了後も影響力を発揮できる体制の構築を狙っている。そのため、第2次安倍政権発足後もしばらくは、安倍が嫌う石破とも裏で気脈を通じてきた。自らの息のかかった総裁候補を育てようと、麻生派出身の現外相・河野太郎に早くから目をかけ、本人が望んでいた外相への起用を安倍に進言し、実現させてもいる。

第2派閥の麻生派を上回る、約70人にのぼる無派閥議員の人事の面倒などをこまめに見て、囲い込んでもきた。今や約30人の若手無派閥議員が、事実上の「菅派」だと言われる。

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さらに菅は、ここにきて幹事長の二階俊博に急接近している。

二階は「安倍首相に不測の事態が起きても、菅さんがいるじゃないか」と以前から繰り返していたが、最近とみに菅と水面下で連携を深める。6月10日に行われた新潟県知事選でも二階主導で擁立した候補を菅が全面的に支援し、激戦を制した。

安倍総理の退陣後、総裁候補のいない二階派と、無派閥の「菅派」約30人が組んで、菅を総裁候補に担ぎ出す展開も皆無とはいえない。仮にそのとき石破、岸田、菅の3人が立候補した場合、カギを握るのは最大派閥の細田派だ。そこで事実上、すでに細田派の領袖である安倍が菅支持を打ち出せば、「菅首相」も現実味を帯びる。

この5年半、政権の大黒柱を務めてきた菅が立候補しようという時に、「否」という選択肢が安倍にあるかどうか。「派閥を持たず、間もなく70歳になる菅が宰相の座を狙えるのは、安倍が退陣する時の一度限り」というのが党内の一致した見方だ。菅からすれば、安倍と岸田に楔を打ち込み、距離を広げておくことは大きな意味があるのだ。