「石破を叩きのめす」安倍首相の執念と、菅官房長官の「ある野望」

自民党総裁選・暗闘の全内幕
戸坂 弘毅

表面化する「安倍と菅のすれ違い」

安倍が石破をどれだけ引き離せるか――今回の総裁選は、安倍の「勝ち方」だけが焦点になっているといわれる。だが、この総裁選をめぐって浮き彫りになった重要な事象がある。

「ポスト安倍」をめぐる、安倍本人と、この5年半、安倍を官房長官として支え続けてきた菅義偉の思惑の違いだ。

2人のすれ違いは、安倍が信頼する盟友で、党内第4派閥を率いる党政調会長・岸田文雄の立候補をめぐって表面化した。

今からちょうど1年前、昨年7月のこと。安倍は当時外相だった岸田と、EUとの首脳会談のために共に訪問したブリュッセル、そして帰国後の東京で、二度にわたり2人だけで長時間、酒を酌み交わした。

その会談で岸田は、「外相を外れて党三役に就きたい」との考えを安倍に伝えたうえで、「どのような立場になっても(安倍)総理が続けるという限りは全力で支えます」と明言した。翌年(今年)の自民党総裁選に安倍が立候補するのであれば、自らは手をあげず、安倍支持に回ることを示唆したのだ。

安倍は喜び、自分が首相を辞めた際には岸田に譲りたいとの考えを仄めかした。この時期、安倍は親しい政界関係者に「私が辞める時の総裁選では、清和研(=清和政策研究会、安倍の出身派閥である細田派)として岸田さんを推すことは、極めて有力な選択肢だ」とたびたび漏らしていた。

 

ところが、それからほぼ1年が経った今年6月18日、岸田は赤坂の日本料理店で、ビールと日本酒を酌み交わしながら2時間以上も安倍と向き合ったものの、総裁選への対応を最後まで明らかにしなかった。派内の全員から総裁選への対応について意見を聴いた結果、主戦論が多かったためだ。

岸田は安倍に「私は未だに派閥を掌握できておらず、皆の意見を無視できない」と弁明。「私が『総裁選で負けて我が派が干されたら、皆が困るだろう』と言っても『構わないから出ろ』という声が多いのですよ」と言い訳を繰り返し、安倍を呆れさせた。

安倍は、「もしあなたが立候補したら、他派の手前、岸田派は処遇できない」「私が今あるのは、小泉内閣で幹事長や官房長官など政権中枢を経験してきたからだ」と立候補を止めるよう促したが、岸田は最後まで言を左右にした。

安倍は今年に入ってからも岸田と会合を繰り返してきたが、流石に6月ともなれば、優柔不断な岸田も対応をはっきりさせるだろうと考えていた。それだけに会談後、周辺に「岸田さんも、皆から意見を聴いたりしちゃダメだよな」と吐き捨てた。

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岸田派内部の実情はどうだったか。事務総長の望月義夫らベテラン議員には慎重論が強いとされたが、ベテランでも文科相の林芳正や元経産相の宮沢洋一らは「総裁選に出れば、負けても知名度は一気に高まるし、政治家として成長できる」とか、「仮に安倍首相の退陣後、細田派の支援を受けて総理になったとしても、賞味期限が切れた安倍さんからの『禅譲』と見透かされ、国民の支持は得られない」などとして、主戦論を主張していた。

だが、岸田はかつて宏池会(=現在の岸田派)の会長だった加藤紘一が、総裁選で現職の小渕恵三に挑んで敗れた結果、宏池会が徹底的に冷遇され、加藤が失脚に追い込まれた経緯を間近で見ていたため、決断できなかったのだ。