この国はまだまだ捨てたもんじゃない…西日本豪雨と優しい日本人

被災地で見つけた 市井の「偉人」たち
週刊現代 プロフィール

はじめて会う人なのに

災害が発生したとき、もっとも重要なのは水をどう確保するか。入浴や洗濯、調理はもちろん、排泄物の処理にも水は不可欠だ。実際、避難所ではトイレの懸念から水や食事を摂らなくなり、連日の暑さで脱水症状を起こす高齢者も少なくない。

それは冒頭の倉敷市真備町も同様で、豪雨災害後1週間以上ほぼ全域にわたる断水が続いた。

そのようななか、町内を歩くと、「井戸水あります。仮設トイレあります」という大きな張り紙が目に入った。開放しているのは水川歯科医院院長の水川正弘さん(56歳)だ。

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「正直、これほどの大事にならないだろうと油断して、逃げ遅れたうちの一人です。異変に気づいたのは夜中の3時ごろ、駐車場の照明が浸水して漏電しているのが見えました。

うちは1階部分が病院で、2階が自宅。カルテを少しでも2階に上げようと1階に降りたら、10分もしないうちに胸のあたりまで水が上がってきて……。このままでは出られなくなると思い、裏口のドアをこじ開け、2階に通じる階段まで泳ぎました。あとは救助が来るのを呆然と待つばかりでした」

 

翌日、スタッフや親戚が病院の片付けの手伝いにやってきた。人の温かさを実感し、一方で自責の念に駆られる水川さんは自分にもなにかできないかと考えたという。

「私は、東日本大震災のときに歯医者として遺体の身元確認の手伝いをした経験があります。

今回の豪雨でも役立つことがないかと、知り合いから仮設トイレを借りて9日朝に設置しました。そのときは行政の仮設トイレがまだなく、少しは助けになったかなと。

井戸水も、その翌日に開放したんです。いつでも勝手に使ってもらっていいと心づもりをしていますが、皆さん、わざわざ『お借りしました。ありがとうございます』とお礼を言われるんです。こういうところが日本人らしいですよね」