昭和の怪物たちが我々に教えてくれる「歴史の闇」

歴史はなぜ見直され続けるべきなのか
保阪 正康 プロフィール

東條英機という人間の実像

自著『昭和の怪物 七つの謎』では、東條英機、石原莞爾、犬養毅、渡辺和子、瀬島龍三、吉田茂らが残した「歴史の闇」に迫ってみた。

同時代の中では見えなかった風景や、さほど詳細に語られていないが歴史の視点で見るならばきわめて重要な構図、さらには人間模様をとりあげている。

 

私自身、昭和史の検証(それも実証的なとりくみを企図してきたわけだが)にあたり、四十年余に延べ四千人近くの人びとに会ってその体験や考え方を聞いてきた。

日中戦争、太平洋戦争を含む昭和の戦争を解明したいと思ってのことだった。

多くの証言を聞き、多くの光景についての説明も受けた。

私の聞いた証言や風景は、私の中で咀嚼され、その折々にノンフィクションや評伝、評論として著してきた。

しかし一定の時間が過ぎてみると、たとえば東條英機という戦時下の首相を私は七年近く取材を続け、その実像を明らかにすべく評伝を書いたことがあったのだが、この軍官僚によって指導された戦争の実態は、むしろ石原莞爾と比較対照することで、その歴史的罪が浮かびあがるのではないかと考えるようになった。

東條には思想や哲学がないとはよく言われたが、いやむしろこの軍官僚は思想や哲学の意味がわからずにひたすら現実の中で二つの選択肢のうちのどちらを選ぶかとばかりに戦争を進めてきたというべきだった。

「過去」を現代史の視点で捉え直す

私が話を聞いた中には、中国人、アメリカ人、ロシア人、イギリス人、オランダ人や東南アジアの国々の人びともまた多かった。

もう十年以上も前になるが、タイのバンコクで日本軍による捕虜虐待で亡くなったイギリス人の墓地に赴いたことがある。

墓地の脇に当時の新聞記事やイギリス軍の兵士たちの写真を飾ってある、竹藪でつくった小さな資料館があった。

そこを見学していると、イギリス人の老夫婦二組がやはりその内部を見学していた。

私を中国人とまちがえていたらしく、日本の軍国主義はひどいことをすると言って同意を求めた。

私のとまどいを見て、日本人とわかったらしく、夫婦は私のもとを離れていった。

その視線、態度に出会ったとき、いたたまれなくなって私もその場を離れた。

このような体験はこれまでも少なくはなかったのだが、私はこのイギリス人老夫婦の憎悪の目が何を語っているかを、そのとき初めて知った。

若いときはその憎悪の目に気づかなかったのである。

過去の歴史を現代史の視点で捉え直すという試みは、おそらく我々にとって、必要不可欠な行為なのだ。

昭和の怪物 七つの謎