部品バラバラ、超小型モーター…時計の歴史を変えた「仰天の工夫」

日本の発明が「世界的革命」を起こした
織田 一朗 プロフィール

画期的な発明「ステップモーター」

諏訪精工舎の技術者たちは、常識にとらわれないことを念頭にさまざまなアイディア出しを行ったのですが、その議論から生まれたのが、ステップ(間歇型)モーターのアイディアでした。

永久磁石と電磁石を組み合わせ、電気信号を小型モーターで回転運動に変えることにしたのです。

【画像】クオーツウオッチの内部クオーツウォッチの内部 Photo by iStock

そこで、超小型モーターの開発に没頭しました。ローターには白金コバルトを使用し、コイルは0.2ミリメートルの極細線を約2万回巻くことで、直径2.8ミリメートル、厚み0.5ミリメートルにおさえ、消費電力7.5ミリワットで作動する超小型モーターが誕生したのです。

ところが、モーターの特性で新たな難問が生じました。電源を頻繁に入れたり、切ったりすると、まれにモーターの回転の向きが逆転する現象が発生することがわかったのです。

これは時計にとって致命的です。駆動部分は1日に0.1秒しか狂わないほどの時間精度で保たれていても、モーターが1回逆転すると、その瞬間に1秒の誤差(つまり駆動部分の誤差の10日分)が生ずることになります。

そこで「絶対に逆転しないモーター」の開発が必須の課題となったのです。現象の指摘は簡単ですが、解決策はなかなか見つかりませんでした。

苦肉の策で考え出されたのは、モーターの核として回転するローターと、ローターを包んでいるステーターの内壁との距離を変えることで、磁石の効き具合に場所による差をつけたのです。

この案はまるで「コロンブスの卵」のようなもので、見事に効力を発揮したのです。それによって、ローターの逆回転を完璧に防ぎ、回転は前進方向にしか回らないようになりました。

次に問題となったのが電力です。当初のムーブメントの消費電力はかなり大きく、試作品の電池寿命は約3ヵ月しか持ちませんでした。

そこで考え出されたのが、「1秒運針」です。機械式時計のように小刻みに針を動かすのではなく、1秒に1回だけの運針に切り替えたのです。モーターに電流が流れる時間は1000分の25秒程度で、残りの1000分の975秒は永久磁石が働いて秒針は止まったままとなります。

秒針を常時運針させないので、消費電力を大きく削減できるようになったのです。その上、停止している時は部品が固定されるため、外から加わる力(外乱現象)にも強くなる、という利点も加わりました。

その結果、「クオーツは1秒運針」という新たな特徴が生まれました。

部品をバラバラに配置

超小型のステップモーターで、技術の壁を破ることができたのですが、実際のムーブメント(機械体)を設計すると、モーターを収納できるスペースが見当たらないのです。

そうでなくとも、ムーブメントの厚みはすでに5.3ミリメートルに達し、防水仕様を施したケース胴体の厚みは11ミリメートルにもなっていました(今日の一般防水仕様のケース厚は7~8ミリメートル。ムーブメント厚は3ミリメートル前後です)。

他の部品もそれぞれ極限まで縮小化を実現しています。ここにモーターで3ミリメートルもの厚みが加われば、腕時計としての商品化をあきらめなければなりません。

技術陣には、「ムーブメントの厚みを変えずにステップモーターを組み込む」という超難題がのしかかったのです。