――ここでお話の最初にも出てきましたが、このイベントを取り仕切っている電通についても、関連する点を聞きたいと思います。彼らが4000億円以上ものスポンサー収入を集めているのに、なぜ組織委はボランティアを無償にするのでしょうか。
「これは電通に限ったことではありませんが、広告代理店の使命は、スポンサーのための最大利益を生み出すことです。
単純に計算してみましょう。五輪期間中、一人10日働くとし、日給を1万円、10万人のボランティアに支給した場合、かかる経費は100億円です。全体の協賛費4000億円からすれば微々たる額ですが、払わなければそのまますべて利益になる、というわけです。わかりやすいですよね。
電通は17年度の連結売上高は5兆円を超え、世界一の広告代理店です。今回、電通は、より多くの金をかき集めるため、これまでのオリンピックにあった『一業種1社』というスポンサーへの規制も取り払いました。
もちろんこれは電通だけで決めたことではないですが、それによって前回のリオ五輪からも倍以上の50社(2018年7月現在)という史上最大のスポンサー数、収入になりました。開催まであと2年ありますし、さらに増えていくでしょう。先日はパソナが名乗りを上げましたね」
――それにしてもこの問題は新聞やテレビであまり見かけないですね。
「新聞は全国紙5紙すべてがオリンピックのスポンサーになってしまっており、テレビと新聞はクロスオーナーシップという制度で結ばれていますから、当然こうした問題を深く追及できません。
無償ボランティア問題を扱うということは、これまで概観してきたように、組織委員会や電通の核心的利益にメスを入れることになります。無償だからいい、悪い、交通費を払え、という単純な話ではすまない。だから大手メディアはこの問題を避けて通り、国民になかなか真実が伝わらないのです」
――無償ボランティアには、オリンピックにまつわるさまざまな問題が絡んでいるのですね。
「だれかのために役に立ちたい、助けたい思いは尊いと思います。ですが、その思いを搾取する構造があることを知った上で、参加するかしないかを決めても遅くはありません。先日刊行した『ブラックボランティア』では、問題となっている事実をひとつひとつ提示し、解説しました。まずこの事実を知り、その上で参加するかどうかを判断してもらえたらうれしく思います」