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「会わないほうがいい」そう言われた「見知らぬ兄」に会いに行く決意

現役証券マン・家族をさがす旅【26】

前回前々回、入院中の父がかつて結婚していた前妻を訪ねた「ぼく」。あいにく会うことはできなかったが、彼女の息子、つまり「腹違いの兄」を知る女性と話すことができた。

再び父の介護と日常の仕事に戻った「ぼく」だが、もうひとつの家族への想いは募る一方だった…現役証券マンで作家の町田哲也氏が、実体験をもとに綴るノンフィクション・ノベル「家族をさがす旅」。

あのプレハブに戻りたい

天気の良い日は、近所に買いものがてら散歩に行くのが父の日課になった。こんなときに、飲みたいペットボトルの飲料をまとめ買いする。父が好むのは、紅茶やカルピスといった甘い飲みものだ。

身体を動かすことが多くなると、お腹が痛いということが増えた。見てみると、お腹のガーゼに血が滲んでいる。胃ろうのチューブが少し出て来てしまっている。

水分を飲む量が多いため、その結果廃棄液が重くなり、お腹に負担をかけているようだ。一日の廃棄量が4リットルになることもあった。

八木医師からは、水は常識的な量である一日1リットルくらいに抑えて欲しいといわれた。しかし500ミリリットルのペットボトル4本くらいは、いつの間にか飲んでしまう。食事をとれない父には、水を飲むことだけが楽しみだった。

 

飲むという楽しみがなくなると、身体を動かす気力がなくなるのがむずかしいところだった。日中は起きているようにいわれたが、散歩とトイレに行く以外は寝てしまうことが多くなった。

テレビはサスペンスドラマを見ることができるまで集中力が回復したが、起きてなければ体力はつかない。

増田相談員が腸ろうの栄養剤を流し込む機械を手配してくれてからは、劇的に腸ろうが楽になった。今までの苦労が嘘のようだ。

病院では、1時間に100ミリリットル流れる速さにするようにいわれているが、実際には100ミリ設定だとかなり速く終わってしまう。

試験的に、1時間80ミリリットルにしてみた。ゆっくり落とせば下痢状態から解放されるだろうか。70ミリリットルも試してみたが、あまりにも時間がかかるので90ミリリットルのペースに戻した。

朝起きると腸ろうの栄養剤がチューブにつながっておらず、畳に1000ミリリットルほど流れ出ていたことがあった。夕方の薬を19時に入れた後、栄養剤を800ミリリットル追加してポンプをリセットしたが、チューブにつなぐのを忘れていたようだ。

通院の日は、待ち時間に病院のカフェによるのが楽しみになった。オレンジジュースやアイスコーヒーくらいだが、外で飲食できるのがうれしいのだろう。

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父は待っている時間に、母と手術後のことを話し合った。父の気持ちは、退院して看護師の訪問がなくなったら、工場のあったプレハブに戻りたいということだった。自分の城で、おかゆを作って食べたいという。

この日は胃ろうと腸ろうのチューブを取り換える予定だったが、気分が悪くなり、翌週行うことになった。

オレンジジュースを飲んでも廃棄液が流れず、気持ちが悪くて何度も吐いてしまった。胃ろうのチューブが詰まったかと思い、帰宅してすぐに洗浄すると、ようやく廃棄液が出てきた。

水を飲み過ぎるのは良くないが、あまり飲まないとチューブが詰まってしまうことがわかった。胃ろうの廃棄液の流れが悪くなると、お腹にたまって気持ち悪くなる。朝起きると、すぐに胃ろうの廃棄袋を洗浄するようになった。

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