朝から晩まで米を取引! 実は超絶せわしなかった江戸の人々

知られざる「江戸時代経済」の実態とは
高槻 泰郎 プロフィール

市場経済とがっぷり四つ

とりわけ強調したいのは、江戸幕府の役割である。市場経済を利用し、時にこれを保護したのは他ならぬ江戸幕府であるが、全面的にこれを容認し、放任したわけではない。

江戸幕府は市場経済に任せるだけでは問題が生じかねないことをよく知っていた。

学ぶべき先例もなかった江戸幕府は、あの手この手で市場を制御しようとして、実際に数多くの失敗をしている。しかし、そこから学ぶことで、目を見張るほど効果的な政策にもたどり着いている。

世界史的に見ても、前近代社会にあって、ここまで市場経済とがっぷり四つに組んで政策を展開した政権も珍しいと私は考えている。

 

2007-08年の金融ショックを経て、市場経済を制御する政策当局の役割がいよいよ注目されている今、我々の参照する経済学を、より説得的な学問にしていくためにも、江戸幕府と市場経済の格闘の歴史を観察することは有益な作業と言えないだろうか。

そんな思いを込めて、この度『大坂堂島米市場─江戸幕府vs市場経済』(講談社現代新書)を上梓した。この書では、江戸時代の中央市場、堂島米市場を舞台として、市場が生まれ、発展していく過程、そしてそれに対峙した江戸幕府・大名・商人たちの試行錯誤を描写している。

この書を読み終えた読者にとって、市場経済との向き合い方について、何かしら得るものがあれば幸いである。