治療中は地獄…医師が語る「ここだけは絶対ケガしたくない」場所

覆面ドクターのないしょ話 第29回
佐々木 次郎 プロフィール

のどを詰まらせたら、窒息のおそれも

くしゃみをするときは悲惨だ。「ヘップション!」と口でくしゃみをしたくてもできない。今までの人生で経験したことがないくらいの超高速エネルギーの爆風が鼻の穴を通過する。

 

通常は、鼻の穴は2つ開いているので、くしゃみの風圧はまだ分散される。だが、アレルギーなどで日頃から片方の鼻の穴が詰まっている人は、開放されたたった一つの鼻の穴から、すべてのエネルギーを放出せざるを得ない。わかりやすく言えば、村上ショージの「ドゥーン!」に匹敵する勢いで鼻腔内の粘液が噴出されることになる。当然鼻くそ・鼻水だらけの顔になってしまい、鼻も痛い。

歯の隙間からくしゃみもできるのだが、口の周りはよだれだらけになる。いずれにしても、これが彼女だったら幻滅してしまうくらい美人台無しの光景になる。

口が開かないから、普通のごはんは食べられない。ごはんを食べないと飢えてしまうから、食事は流動食になる。

手術後の食事は、流動食→三分粥→全粥になり普通なら通常食にアップしていく。しかし、顎間固定後は口が開かないので、全粥の次は食事を粉々に刻んだ「ミキサー食」が食事の度に出される。ごはんというのは、白いごはんとおかずと味噌汁が別々にあるからこそ美味しいのだ。それを一緒くたにしてミキサーにかけたものなんて美味しいはずがない。栄養やカロリーはそこそこあるかもしれないが、これではネコまんま同然ではないか!

さらに歯も磨けないから息が臭くなる。笑うと歯の間にごはん粒が詰まっていて、息が臭くなった恋人って、何だか嫌だと思いませんか? 

最も怖いのはのどに何かを詰まらせた場合だ。食事などがのどに詰まった場合、口が開かないから窒息してしまうおそれがある。このため、即座に対応できるよう、顎間固定された患者さんの枕元にはワイヤー・カッターという針金を切断できるはさみが用意されている。

固定期間は2週間。以上のことを考えると、2週間もこんな状態が続くなんてまさにこの世の地獄ではないか! 

私は、スキー場でケガした瞬間、これらの恐ろしいできごとが、早送りの走馬灯のように頭の中に浮かんだのである。

スキーは楽しいけど……(photo by istock)
顎はしっかりガードしましょう(photo by isock)

ところが僥倖ともいうべきことに、20分ほど経過したら、私の顎関節は動いた。折れていれば動かない。私の顎の骨は折れていなかったのだ! 顎間固定は免れた!

だが、問題点が1つ残っていた。打撲した下顎の皮膚はパックリ切れていて、下顎の骨が露出する深い傷だったのだ。当然、縫わなければならない。私は医者のくせに他人に縫われるのが嫌だった。