10年間で500人を治療してわかった「痴漢」を取り巻く問題

そもそも痴漢の「病名」ご存知ですか?
原田 隆之 プロフィール

痴漢を病気と見ることの利点

痴漢を病気と見ることの利点は、先に挙げた刑事司法の問題を補ってくれるということである。

再犯率が高いのは、それは衝動を制御できない病気だからであって、刑罰に加えてそれを治療することによって再犯を効果的に抑制できるようになる。

治療のタイミングは、刑務所の中でもよいが、それはすでに10年以上前に「性犯罪者再犯防止プログラム」として始まっている。しかし、先に述べたように、痴漢で刑務所に入るのは、2度3度と繰り返した人たちであるので、それでは遅すぎる。

私の主張は、刑務所に入るより前のタイミング、すなわち罰金や執行猶予で済んだときに、それで「一件落着、あとは自助努力」というのではなく、強制的でもよいから治療につながるような枠組みを整備するということである。

あるいは、まだ捕まってはいない人が、自分の問題性を自覚し、それをどうにか治したいと思ったときにいつでも治療につなげられる枠組みを整えるべきだということである。

そうすれば、痴漢による被害が効果的に抑制されることになる。コストもはるかに低くて済む。

 

「痴漢は病気」という主張は、つまるところ、刑罰と治療というダブルの取り組みによって、「被害者を出さないこと」「再犯を防止すること」が第一の目的であることを強調したい。

われわれの病院では、約10年の間に500人近い「強迫的性行動症」(痴漢だけではない)の人々に治療を提供してきた。そのデータを見ると治療後1年間の再犯率は、わずか4%である5

それまで再犯率100%であった人々が、治療につながることによって再犯が明らかに抑制され、仕事に就いたり、学校に戻ったりして、その人らしさを取り戻し、社会復帰を果たすことができている。これは社会全体にとってもよいことである。

しかし、ここで障害となるのは、今のところ社会の中に治療資源がほとんど皆無であるということである。痴漢を治療する病院が片手にすら余るのでは、どうにもならない。

それは、医療者の側にも、法律家の中にも「痴漢は病気」であるという見方に対する反対や偏見が多く、医療の問題として考えられていないこと、治療ノウハウについての知識がないことなどが原因である。そして社会の中にも同じような反対意見は根強い。

痴漢をした本人が変わらなければいけないのはもちろんだが、社会の側も感情的な反発をひとまずは抑えて、効果的な再犯防止という目的のため、冷静に治療のエビデンスを理解することによって、変わっていく必要があるのではないだろうか。

【参考文献】
1 法務省 平成27年度版犯罪白書
2 法務総合研究所 研究部報告55 性犯罪に関する総合的研究 2016
3 Lipsey MW. Victims & Offenders, 4, 124-147, 2009
4, 5 原田隆之 入門犯罪心理学 ちくま新書