10年間で500人を治療してわかった「痴漢」を取り巻く問題

そもそも痴漢の「病名」ご存知ですか?
原田 隆之 プロフィール

さらに、今年6月、世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類(ICD)の改訂に際して、「強迫的性行動症」という疾患を新たに加える方針であることを発表した。

これは、「反復性のある強い性的衝動を制御できない」障害であり、「個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、その他の重要な分野で活動するうえで著しい問題や障害を引き起こす」ものとされている。

このなかには、痴漢のような性行動のほか、過剰なセックスやマスターベーションなど犯罪ではないものも含まれる。

これは、「衝動制御の障害」というカテゴリーに分類されており、性的衝動のコントロールができないための病気であるということである。

もっとも、痴漢のすべてがこうした障害に当てはまるわけではない。厳密な診断基準に照らして判断する必要があるが、やはり何度逮捕されても、生活が破綻してもやめられないようなケースは、その大半が「病気」の域に達していると言ってよいだろう。

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では、なぜ痴漢をする人々は、性的衝動のコントロールができないのだろうか。

それは、脳の大脳辺縁系という部位の報酬系と呼ばれる神経系に問題が生じていることによる。

報酬系とは、われわれに快感をもたらす神経系の総称であるが、薬物摂取でも、性的行動でも、人が大きな快感を抱いたとき、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が多量に分泌される。

それが一種の「記憶」となり、脳は再び同じ快感を得ようとして、その行動を行うように命令を下す。それが、抗い難い強い衝動となる。

 

一方、衝動をコントロールしようとするのは、われわれの理性であるが、これは大脳皮質の前頭前野と呼ばれる部位にその座がある。

理性がうまく働いて衝動をコントロールできればよいが、衝動制御の障害では、報酬系があたかも「ハイジャック」されたような状態になっており、自分の意思(理性)に逆らって、暴走を始めてしまっているのである。