10年間で500人を治療してわかった「痴漢」を取り巻く問題

そもそも痴漢の「病名」ご存知ですか?
原田 隆之 プロフィール

それに対し、「ではもっと厳罰に処するようにすればいいのではないか」という意見がある。

罰金や執行猶予で済ませているから、再犯を繰り返すのならば、初犯のときから実刑にして刑務所に入れればよいという考え方である。

しかし、問題はそんな単純なものではない。

まず、世界中のどの国においても、拘禁刑は最終手段であり、その使用は抑制的にすべきというのが刑事司法の鉄則である。それは、罪罰均衡主義の見地からの要請でもある。

また、科学的なエビデンスを見ても、厳罰化は再犯を抑制しないことが明らかになっている。厳しく罰したら、それに懲りて犯罪が抑制されるというのは、あまりにも単純な見方であり、データはそれを支持していない。

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たとえば、リプセイによる研究では、カウンセリングは10%程度再犯率を抑制するが、処罰のみでは再犯率は低下しないばかりか、逆に1%程度増加することがわかっている3

そして、より効果的にデザインされた治療を実施すれば、再犯率を少なくとも30%は抑制することができる4

さらに、刑務所というものはとてもコストがかかる。単純に計算して、受刑者1人当たり、1年間で約400万円もの税金がかかっている4

それだけコストをかけても、効果があるのであれば、それは社会の安全のための必要な投資といえるだろうが、効果が見込めないのだから、合理的な投資であるとはいえない。

したがって、痴漢という犯罪に効果的に対処するには、やはり刑罰だけでは限界があるという結論になるわけである。

 

痴漢はなぜ繰り返されるのか

それでは、痴漢はなぜ繰り返されるのだろうか。

その理由を科学的に分析すれば、効果的な対処の糸口が見えてくる。

それが「病気」という視点である。

実は、何十年も前から、痴漢にはちゃんと「病名」がある。

精神障害の診断のために世界中で用いられている診断基準である「精神障害の診断と統計の手引き」(DSM-5)には、「窃触症」という病名があり、その定義としては、同意のない他人の身体を触ったり、自らの身体をこすりつけたりすることに強い反復的な性的興奮を抱く一種の性的倒錯であり、それが社会的、職業的分野に重大な問題を起こしている場合、こう診断される。

「窃触症」は、「パラフィリア障害」というカテゴリーに分類されている。これは性行動の対象や方法の異常のことであり、ほかには「窃視症」(覗き、盗撮)、「露出症」などがリストアップされている。