絶滅動物の指の数もチェック!「マンガの監修者」は何をしているのか

『天地創造デザイン部』ここだけの裏話
多久和 理実 プロフィール

世の中を「面白さ」と「正確さ」で二分する線を引くとすれば、私はどうやら「正確さ」側にいる人間のようです。「面白さ」側の需要はよくわかりません。

ただ、専門家のように「正確さ」側の奥深くにいて「面白いけどちょっと不正確」が許せないのとは異なり、「面白さ」と「正確さ」の間にある境界線まで近づくことができます。

面白ければ「ちょっとした間違い」はOK。なぜなら、面白いと思ってもらえればその後も学び続けてより正確なことを知ってもらう機会がある。一方で、面白くないと思われてしまったらそこでお終い。

なので、「面白さ」側にいる人たちが採用してくれたらいいなあと思う代案やネタを、境界線のところまで運んできて向こう側にポンポン投げ込むようにしています。

思わぬ間違いはなぜ起きる?

この投げ込み方にもコツがあって、仕事を始めた当初はよくわからずに失敗しました。

何よりもまず、マンガ家さんにわかるように間違いを指摘したり、代案を説明したりしなければなりません。普段理工系の学生さんとばかり話している弊害で、思わぬ落とし穴にはまってマンガ家さんに伝わらないことがあります。

例えば、『天デ部』第4話にカプサイシンの構造式が登場します。構造式を書く場合、結合を示す線は結合している原子同士を結ぶように書くことや、実際の原子の配置を反映して部分構造を書くのは当たり前だと思っていました。そのため、掲載された構造式には少し不満があります。

あと、別のマンガの話になりますが、数式を指摘するときに、電子メールでやり取りしているのでt^2のようにハット記号(^)を使ってべき乗を書いていたら……後で原稿を確認したらハット記号がそのまま手書きされていてビックリしたことがあります。

手書きにするのなら、上付き添え字に直してくれるだろうと思い込んでいたわけです。

他にも、式中のγがrに置き変わっていたり、ρがpに変わっていたりすることも。

「この物理量はこの文字で表すのが当たり前」みたいな、理工系にとっての常識がないと、あたかも絵を模写したかのように、なんとなく似ているけどちょっと違うものになってしまう。

数式や記号を使うのは当たり前のことではなくて、訓練の結果として身に付いたことだったのだと改めて気付きました。

カプサイシンの構造式。間違ってはいないけれど、惜しい。カプサイシンの構造式。間違ってはいないけれど、惜しい……

間違いは監修の責任

この記事で強調しておきたいのは「面白さはマンガ家さんの功績、間違いは監修の責任」ということです。

私は「面白さ」の部分には寄与できていませんが、「正確さ」の部分には責任を持ちたいです……その分野に詳しい人が読んでも「まあ、だいたい合ってるかな」と許してくれる程度まで。

時には読者が、「これ間違ってるよ」と指摘してくることもあります。その際に、同じことを私がネームの段階で先にコメントしておけば「その指摘は把握しているけど検討した上であえて採用しなかった」とマンガ家さんが自信を持って対応することができます。

そのため、私は自分の仕事をグラウンド整備の石拾いみたいなものだと解釈しています。作品が足を取られて転ばないように、気付いたことは些細なことでも何でも拾っておきます。

絶滅したグリプトドンが5本指だとか、トルネードとハリケーンの違いだとか、そんなことまで気にしながら読む読者はいないかもしれません。でも、一応先回りしてコメントしておくのです。

重大なミスに気付かず掲載されてしまったら監修の責任だし、重大なミスを指摘しておきながら代案が採用されなかったら……マンガ家さんを説得できなかったという意味で、それも監修の責任だと考えています。

『天地創造デザイン部』は現在第2巻が発売中!『天地創造デザイン部』は現在第2巻が発売中!