絶滅動物の指の数もチェック!「マンガの監修者」は何をしているのか

『天地創造デザイン部』ここだけの裏話
多久和 理実 プロフィール

「美味しい生き物を造る」がテーマの第4話には、「短距離選手よりマラソン選手のほうが美味しい」というセリフがあります。

短距離選手とマラソン選手、どっちが美味しいのか?短距離選手とマラソン選手、どっちが美味しいのか?

これは雑誌掲載時には「マラソン選手より短距離選手のほうが美味しい」になっていました。鶏肉のムネにあるのが「速筋」でモモにあるのが「遅筋」ということからの推察なのですが、マンガ家さんが参照した資料の日本語訳が間違っていて、逆になっていたそうです。

マンガ家さんは一般書からネタを取ってくることが多いので、その内容に誤解や誤訳がないか、海外の論文や専門書も含めてチェックすることにしています。

「首が長いシカを造る」がテーマの第1話では、キリンの生態が紹介されています。掲載時の説明は「交尾するつがいの9割が雄同士とも言われ、多くの場合、首をぶつけて喧嘩をしたあと、交尾に雪崩れ込む」でした。

この説明文に対して読者から不正確ではないかという指摘が入ったそうです。そこで監修を引き受けた際に「9割」という数字の根拠を探すことになりました。

どうやら「9割」という数字は「94%」と書いてる資料を参照しているようでした。キリンの交尾についての文献を読み進めていくと「タンザニアで3200時間観察した中で目撃した18回の交尾のうち17回が雄同士だった」という研究報告にたどり着き、18回中17回というデータから94%という計算をしたのだろうと気付きました。

計算は間違いではありませんが、18回はパーセンテージを求めるのに十分な母数とは言えませんし、地域が限定されています。

そこで単行本では「ある研究者がタンザニアで観察した18回の交尾のうち17回が雄同士だったというデータもあり」に変更しました。

このように、マンガ家さんや編集者さんを助ける雑用係のような仕事をしています。連載1話につき、平均で10時間程度の仕事量です。

もしかしたら他のマンガ監修者の方はまるで違うお仕事をしているのかもしれませんが、残念ながらわかりません。私の場合、「ペニスが2本ある生き物を探して」でも「イカはどこから射精するのか調べて」でも、指示されれば何でもやります。

イカの交接腕は長い腕(触腕)ではなく、短い腕のうちの1本あるいは2本であることが多い。イカの交接腕は長い腕(触腕)ではなく、短い腕のうちの1本あるいは2本であることが多い

専門ではないからできることがある

私の専門的は生物学ではありません。もちろん、趣味としては生物学も生き物も大好きですが、専門として勉強したことがあるのは物理学と科学史だけです。

このようなバックグラウンドでも、監修の仕事をする上では有利な点があると感じているので、いくつか紹介します。