チップの上の「生命」

生命1.0への道 第11回
藤崎 慎吾 プロフィール

皆が「おっと」と言い始めたら生命体

一方で田川さんは最小哺乳類システムの研究をどこまで進めるかについて、次のように語っていた。

「今のようなチップをつないでみせても『これって生命体?』と皆は首を傾げると思います。それを『ああ、これは生命体だ。やばいな』『こんな研究やばいんじゃない?』と思うようになるところは、どこなのかを探っていきたい。周囲の反応を見ながらつくっていって、皆が『おっと』と言い始めたら、生命体まで達したなと考えます」

どこかで聞いたようなセリフだ。そう、第9回でELSIの車さんは、こう言っていた。

「たとえ僕が今の人工細胞を見せて面白おかしく発表したとしても、それを生命だと思う人はほとんどいないでしょう。ただ何とか中で脂質ができて、エネルギーもつくれて、タンパクもつくれて、1個が100個くらいに増えましたという、ボコボコボコというムービーを見せたら『ああ、やべえこれ』と思ってくれるかもしれない。そう思ってくれたら、それは生物でいいんじゃないか」

第9回『5年以内に実現? 光合成をして分裂もする人工細胞〈後編〉』 
〈「危ないな」と思ったら、それが生命〉
より)

依然、「生命体」と「生命」の違いには留意しなければならないが、僕にはほぼ同じことを言っているように聞こえる。つまり人工生命(体)をつくろうとしたとき、主観的な反応は無視できないので、いっそのことそれを成功の基準にしてしまおうということだ。

最小哺乳類システムの中には神経細胞も含まれている。今のつなぎかたでは、この神経細胞がシステム全体に影響を及ぼすようにはできていない。これがもし「神経系」と呼べるような形で組みこまれ、何らかの形で人間とやりとりできるようになったとしよう。そして周囲が「あっ、もしかしてこいつ自分のことを生命だと思ってるんじゃない?」「そんな気がする。気味悪い」などと言いだしたら、そのときは「生命体」を超えた「生命」になるのかもしれない(図5)。

【写真】パッケージ化された最小哺乳類
  図5 最小哺乳類システムを、コンパクトにパッケージ化した時のイメージ図。これを生命体として認識できる日は来るのだろうか(提供/田川陽一氏)

これは現在のように細胞という「なまもの」を使っているうちは、なかなか難しそうだが、デジタル化してしまえば案外、すっと行きそうな気もする。つまりウェットではなく、ドライなシリコンチップの上に生命を構築するのだ。これも田川さんは念頭に置いている。

「今、我々がやっていることは、人工生命システムというものの過渡期というか、橋渡しのところであって、最終的に全部それが情報として制御できるのであれば、シリコンチップ上でやれてしまう。たとえば薬の構造をインプットして、濃度などの条件を入れたら、それが人間の体の中でどうなっていくのか計算機の中で試すことができます」

つまりウェットな最小哺乳類システムでさまざまな実験をくり返し、その情報をもとにドライな生命体システムをつくるということだ。冒頭で想像してみたミニミーも、デジタルであればもっと便利になる。わざわざバンクに預けなくても、インターネット上のどこかに保存しておき、そこへ病院からアクセスしてもらえばいいからだ。

「ついでに言うと記憶なども、どこかで(計算機に)移せるときがあるんじゃないかと思います」と田川さんはインタビューの最後に、究極の野望を明かしてくれた。

「死ぬ前に私の記憶などを全部、移せたら、私は永遠に生きられるかもしれない。もっとも悪い友人からは『おまえがそうなったら、コンセントを抜いてやる』と言われていますが(笑)」

さて、最後に細菌や植物が「生命」であるかどうかについて、アンケートをとらせていただきたい。下記のリンクにアクセスの上、ポチッとしていただければ幸いである。

 「生命1.0への道」アンケート(5) 

細菌に生命あるのか? 植物はどう?
皆さんのご意見をぜひお聞かせ下さい!

アンケートはこちら https://goo.gl/forms/MPqT2KhS4H9rWGCB3

第12回に続く