「在日朝鮮人」と虚偽投稿…ヤフーに削除・慰謝料命じる判決の意味

ヘイトをめぐるプラットフォームの責任
曽我部 真裕 プロフィール

ドイツでは、2017年にSNS対策法が制定され、刑法で処罰されるような表現(ヘイトスピーチも含む)をSNSのプラットフォーム事業者が速やかに削除する義務を定め、さらには詳細な報告義務を課した。

義務違反には最大5000万ユーロ(65億円)もの過料が課されるとされた点も含め、大きな話題になった。

日本でもこの種の法律を定めることは不可能ではない(ただし、65億円もの制裁は日本法では例がない)。

ただし、ネット上のヘイトスピーチについて言えば、憲法の保障する表現の自由の観点からは、削除義務を課すことのできる範囲は極めて悪質な一部のものに限られ、十分な効果は上がらないことが予想される。

 

プラットフォーム事業者の責任

むしろ、プラットフォーム事業者の自主的な対策を促進することが求められる。

前述のように、プラットフォーム事業者は書き込みの削除やアカウント停止等を通じて表現活動に規制を加えることができ、ヘイトスピーチ対策にも大きな役割を果たすことができる。

また、プラットフォーム事業者は民間事業者であるため、憲法の制約を直接受けることもなく、極めて悪質なもの以外の書き込みも、利用規約に基づいて削除するなどの対策を取ることができる。

実際、ヘイトスピーチにはマイノリティの人々を傷つける(ただし、前述のように、法的には個々人の権利侵害とまでは言えない場合も多い)、差別を助長する、青少年にとっても有害といった弊害を生む側面があることは明らかである。

もっとも、書き込みがどの程度の悪質さになれば対応するのか、言い換えればどの程度まで表現の自由を許容するのかということは、表現の自由やインターネットの本質を踏まえれば、まずは各事業者の判断に委ねられなければならない。

比喩的に言えば、清らかな湖も濁った沼もあってよいというのが出発点であるべきだろう。

その上で、プラットフォーム事業者においては、その運営するサービスの特徴に応じて、ステークホルダーとの対話を通じて、社会に受け入れられるサービスのあり方を自ら考えることが求められる。

老若男女、泳ぎの達者な人もそうでない人も集まる水辺では、安心安全を優先した環境づくりが求められるし、分かっている者しか来ないようなところでは、岸壁に柵も設けず、自己責任に委ねるやり方も否定されないはずである。

他方、ステークホルダーの側で声を上げることも重要である。

2017年9月、ツイッタージャパン本社前でヘイトスピーチ対策の強化を求めるデモが行われたことは記憶に新しい。それに対してツイッター社は、努力を続けていることを説明した。

また、今年6月には、アップル米国本社が子どものスマホ依存防止対策に乗り出したが、それは「物言う株主」の要求に応じてのことであった。

訴訟も声を上げる方法の1つである。

今回の仙台地裁の判決は、直接的には権利侵害の捉え方を工夫して救済の範囲を広げたというものであるが、大手プラットフォーム事業者の責任が認められたことで、ヘイトスピーチ問題に関する社会的責任を考えるきっかけとなることを期待したい。