「地方創生」とは何だったか?移動しなくなった日本人が直面する課題

より良い生活のために考えるべきこと
貞包 英之 プロフィール

関係性の消費

こうした現状を問題視し、改善しようとする試みがないわけではない。もっとも注目に値するのが、「関係人口」への着目である。

大都市から地方への移住はハードルが高い。そのため「移住」を最終目的とせずに地方にかかわる人々が、「関係人口」と呼ばれ近年注目されている。

観光や特産品の購買といったかたちで地方にかかわる人を増やすことは、大都市からの関心や援助を引き出すという効果をたしかに生むかもしれない。

ただしそれがどこまでうまくいくかは、疑問である。たとえばいち早く「成功」した「関係人口」増大の例として、「ふるさと納税」が挙げられる。

現住所に納めるべき税金を、代わりに地方に還流させるというかたちで、それは大都市と地方に新たな関係を築こうとした。

しかしよく知られているように、「ふるさと納税」はすぐに返礼品獲得の競争に陥った。大都市に集まる富裕な納税者の歓心を買うために、地方はできるだけ「割のいい商品」を提供する競争を強いられているのである。

それを一例として、「関係人口」をてこに、大都市と地方のあいだにあらたな関係をひらくことは、なかなかむずかしい。

「ふるさと納税」が典型的だが、現代の消費社会のなかでは、観光にしろ、特産品の購買にしろ、「関係人口」をつくる試みは、大都市の住民に選ばれるために地方が競い合うといった、どこかでみた構図に回収されてしまう。

その結果、大都市が都合の良い地方を選択する支配の構図が強まることで、大都市と地方の関係はいっそう非対称なものになりかねないのである。

地方創生はライフスタイルの更新を求める

では地方創生にまったく可能性はないのかといえば、私はそのようには考えない。

だがそれは、地方創生が現状のように地方のためだけのものに留まらないという条件付けてのことである。

地方を「救済」するのみならず、大都市と地方の関係を現実的に変え、結果、大都市の生活も改善するものとしてなら、地方創生も大きな意味をもつのではないか。

前提となるのは、現代では地方だけではなく、大都市が孤立していることである。
たとえば東京圏ではその出身者は91.2%と、ほとんど東京圏に留まり続ける(表1)。

Uターン経験者も含むというデータの限界があるが、少なくとも他の地域と比べれば東京圏出生者が東京に住み続ける割合は、(名古屋という大都市を抱える中京圏とともに)高く、つまり東京を代表する大都市はそこから出にくい閉域を作っている。

それは大都市が魅力的で、留まることが幸福な場所だからかもしれない。

しかしその代償も大きい。

高い地価やそれを原因とした発街の混雑や長い通勤時間に耐え、稼いだ金の多くを吐き出しつつ生活すること。生まれた地で、一生同じような人びとと厳しい競争を続けること。他の場所に赴き、交友関係や人生をリセットして、再挑戦する機会を奪われていること。

そうしたライフスタイルに風穴を開けることこそ、大都市の人々が地方創生に期待すべきことといえよう。「関係人口」に留まらず、地方と大都市のあいだの「移住」や「移動」をより実質的に拡大し、わたしたちの生活の可能性を広げていくこと。

そのためには、わたしたちの生活を縛る制度を根本的に見直す必要がある。

大きくみれば戦後社会は、大都市や地方に家を買い、ひとつの会社で働き、地域に根づくことを理想としてきた。

「移動」が少なくなっている現実は、この「理想」が一定程度実現されていることを示すのかもしれない。

ただしそれには弊害もある。

定住を前提とした生活は、終身雇用や男性一人を稼ぎ手とする家族を中心とした暮らしとむすびつき、大都市や地方にそれぞれ分離された生活を生む前提となっている。

またそれは、多様な家族や働き方のあり方を狭めることで、ひいては出生率の低下や経済的停滞をよりひどいものにしている恐れもある。

 

こうした状況を変えるために、たとえば大胆な労働改革が求められる。

終身雇用・年功序列給与制度がしっかりとあるかぎり、大都市で働く人が仕事を変え、移動することはなかなかむずかしい。

いったんやめても再雇用が容易な雇用システム、またはそこまでいかなくとも、まずは長期休暇が容易に取れる労働環境が要求される。

短期の「観光」では、どうしてもレジャーの側面が強くなる。しかし1〜2ヵ月の地方での滞在が可能になれば、「観光客」をはみ出すより日常的な関係を地元の社会と結べるようになるのではないか。

あるいは私たちを縛る住宅システムの見直しも求められる。大都市の地価が比較的安定し、また税制でも持ち家が優遇されている現状では、大都市で住むために家を建てることが有利な選択となっている。

しかしそれが労働年齢を過ぎたのちも、都市に留まることを自然とみせる原因になる。

そのせいで大都市の過密は高まり、地価は上がり、あらたに若者が都心で働き、家族を作り、生活することがますます大変になっている。

それに対して一時的滞在を基本とし、または複数拠点居住を可能とする住宅システムを構想できないだろうか。