血糖値が「見えすぎる」SFみたいな最新機器で人類はこう変わる

変化する私たちの「身体観」
太田 充胤 プロフィール

これまでは測定が面倒だった

糖尿病の治療において、もっとも重要なメルクマールは「血糖値」、つまり血液中のグルコース濃度だ。食事をとればグルコースが吸収され、血液中に溶け込んで全身をめぐる。これが、「血糖値が上がる」ということだ。

グルコースは細胞の活動に不可欠なエネルギー源だが、血液中に多すぎるのもまた問題だ。血糖値が高いこと、とりわけ急激な上昇低下を繰り返すことは、全身の血管にダメージを与える原因となり、将来の合併症のリスクとなる。

この血糖値を食事・運動・投薬によって一定の範囲に保ち、合併症を予防する、というのが今日の糖尿病治療のコンセプトだ。そして、治療を導入し調整するためには、血糖値を実際に測定して確認することが望ましい。

そのためのデバイスが、リブレを含めた「血糖測定器」である。

さて、従来の血糖測定器が面倒だったのは、毎回血液を採取しないといけなかったことだ。必要な血液はごく少量とはいえ、そのたびに指先をパチン! と刺して血を出すのだから負担は大きい。「痛いから」「面倒だから」と測定をやめてしまう患者さんもいる。

Abott社の「リブレ」は、この血糖値へのアクセスを劇的に改善した。

 

SFみたいな医療デバイス

リブレは手のひらサイズの「読み取り機」と、マカロンくらいの「センサー」とがセットになったデバイスだ。

シール式のセンサーを腕に貼ると、これが皮下組織のなかで常時グルコース濃度を感知し、記録してくれる。そのセンサーに読み取り機をかざせば、リアルタイムで「現在の血糖値:98 mg/dl」という具合に表示されるだけでなく、直近の血糖推移を曲線グラフで見ることができる。

シール式のセンサーで血糖値を測る

患者さんにとって、「リブレ」の登場は朗報だった。とりわけ、血糖が安定しづらく頻回の測定が必要になる1型糖尿病ではインパクトが大きい。

冒頭で紹介したAさんのエピソードは、リブレによる血糖値の「見える化」を、患者さん自身がうまく活用できた例だ。彼だけではなく、すでに大規模な研究で、リブレによる血糖値の適正化が報告されている。

筆者も自分でリブレを使ってみて、まるでSFの世界だと思った。

思い出したのは、伊藤計劃の『ハーモニー』という小説だ。『ハーモニー』とは医療福祉社会の究極形を描いたSFで、体内に入り込んで生体情報を監視するマイクロマシン”Watch Me”が登場する。

”Watch Me”が血糖値や心拍、血圧その他あらゆる異常を警告してくれるおかげで、人々はいつも健康だ。リブレの登場は、そんなテクノロジーの到来を予感させるニュースだっだ。

とはいえ、『ハーモニー』はユートピアというよりはディストピアの話である。極度に進歩したテクノロジーは、市民が不健康になることを許さないからだ。健康をはかる生体情報がつまびらかになれば、市民にはそれを適切に自己管理する義務が生じる。

リブレはあくまで、血糖値ひとつを測れるだけのデバイスである。まだまだ “Watch Me”とは程遠いと感じるかもしれない。しかし、すでにリブレによって似たようなことが起こっているとしたら、どうだろうか。