時代遅れ…?広告クリエイターは「広告ではない何か」を創造できるか

~とあるクリエイターの問いかけ
三浦 崇宏 プロフィール

目指すべきもの

もう一つ、これからの広告クリエイターが目指すべき仕事として、わかりやすい事例を挙げる。

一心堂本舗という歌舞伎座に店舗を構えてお土産を販売する企業がある。彼らが、世の中にたくさんのお土産商品が溢れている中で、一つ抜きん出るための仕掛けはできないかと模索した時、未来のおみやげコンテストで、とある美大生が受賞した歌舞伎フェイスパックの原案を発見した。

その美大生は電通にアートディレクターとして入社し、弊社のプロデューサーの田中(当時は電通所属だった)とチームを組んでいた。

そこで一心堂本舗は当時の田中チームと共に「インバウンド需要を見込んで歌舞伎の隈取をかたどったフェイスパックを開発、販売しよう」という戦略を立て、プロトタイプ開発からパッケージデザインや販売後の広報までの事業開発を1チームとなって実行した。実際に「歌舞伎フェイスパック」は商品化され、メディアでの多数の報道もあり、発売から1年で36万セットという異例のヒットとなり、現在もロングセラーが続いている。

広告の受発注関係であるはずのクライアントとプロデューサーが、「日本を代表するような新感覚のお土産を作ろう」という志を共有し、発売まで互いを信じて成功を遂げた。広告業界ではクリエイターがクローズアップされやすいが、すぐれたプロジェクトはクライアントこそが本当のヒーローであることが多い。

もし、仮にお土産屋の業績を伸ばしたいという課題を与えられた時、おそらく普通の広告会社だったら「面白いCMを作りましょう」というかもしれない。コンサルティングファームだったら「いくつかの工場を閉鎖し、流通を効率化しましょう」というのかもしれない。

ぼくたちは、社会にある機運を発見し、クライアントの技術・商品と接続し、新しいビジネスを生み出す。

これもまた、今の時代にあるべきクリエイティブの姿だ。2007年の電通の採用冊子には「この世に無いモノは、無限に有る」と書いてあった。

 

広告クリエイターの、その先へ

広告クリエイターが、広告のその先へ向かおうとするとき、この仕事の可能性は無限に拡大する。日本には400万以上の企業があり、1日に300の新しい企業が生まれている。テクノロジーの進歩、社会システムの変化とともに、今までにない事業やサービスはますます増えていくだろう。

そうなると企業やブランドの価値を、生活者に届くよう翻訳する広告クリエイターの役割はますます重要になる。その時代を代表するような美しいポスター、面白いCMを作る能力は、社会を前進させるような新しい事業、サービスを作る能力と地続きなのだ。

2013年、ぼくは初めて、カンヌクリエイティビティフェスティバルでブロンズを受賞した。その仕事はテレビCMでも新聞広告でもない。園芸メーカーの“土の安全性・高品質”を証明するために、土を素材にしたフランス料理のフルコースを作って“食べられるほどの安全性”をPRするというプロジェクトだった。

土のフルコース

その時、博報堂の社内報告会でちょっと生意気なコメントを出したのだが、今でもその言葉はぼくの広告クリエイターとしての背骨になっている。そして今、改めてリアリティを増しているとも思う。

「作品をつくるのではない、現象をつくるのが、ぼくたちの仕事だ」