時代遅れ…?広告クリエイターは「広告ではない何か」を創造できるか

~とあるクリエイターの問いかけ
三浦 崇宏 プロフィール

めちゃめちゃ怯えろ

かつて糸井重里さんは、西武デパートの広告で「おいしい生活」と書いた。これはその時代に西武が提供するものは「豪華な生活」でもなく「おしゃれな生活」でもなく、スマートで適度に豊かな「おいしい生活」であると定義したからこそ生まれたコピーだ。この言葉はおそらく当時の西武デパートにとって、単なる広告を超えて、顧客を呼び込む言葉であると同時に、社内では販売する商品の選択基準にもなったことが想像される。

このように、優れた広告クリエイターは企業と社会が握手するポイントを見つけ、企業活動全体を加速させることができる。

我々GOのクライアントに「ペイミー」というITスタートアップ企業がある。企業がここのサービス「Payme」に登録すると、その企業の従業員は、スマホを使っていつでも給料を前払いで受け取ることができるというサービスだ。実際に、このサービスを導入することで、アルバイトの定着率が上がる効果や、従業員の働き甲斐が高まったと感じる調査データも出ている。

しかし、このサービスが立ち上がったとき、一部のメディアからは、フリーターや若者がいたずらに給料を前借りしまくることで、社会の貧困が拡大するのでは、という懸念を抱かれ「貧テック」という批判を受けたこともあった。

 

後藤社長(弱冠25歳だ)と初めてお会いしたとき、彼が「お金をもらうタイミングや働く環境でチャンスを奪われてしまう人たちがいる社会を変えたい」と真摯に語る姿を見て、胸を打たれた。これは、単なる貧困層のためのお役立ちサービスなどではない。社会の仕組みを変える可能性があるサービスだと感じた。事業のプロデュースを依頼されたとき、ぼくたちの力が発揮できると確信した。

近年では「働き方改革」が至るところで叫ばれているが、目指すべきは単なる労働時間の短縮ではなく、雇用者と被雇用者のパワーバランスの是正である。従業員が休みたい時に休める。自らが望んだ労働環境を作れる。そんな社会の制度が実現して初めて働き方改革は成立する。「働き方改革」は「稼ぎ方改革」でもあるはずだ。

後藤社長の事業構想を、そんな社会の機運の中で翻訳すると、これまで画一的に雇用者が定めていた給料の受け取り方を、被雇用者の意志と都合で変動させられる仕組みが必要、ということだ。

そう考えるとPaymeとは「労働者のための給料の前払いサービス」というだけでは足りない。それは「企業と社員のための給与の自由化サービス」ということができる。Paymeは「働き方改革」の時代に必然的に生み出された「稼ぎ方改革」のインフラになりうる。

この、事業の再定義によって、Paymeが今後どんな事業戦略をとるべきかの指針が明確になる。Paymeの営業担当は従業員の労働環境を改善したいと考える企業に優先的に売り込んでいくべきだし、PR担当は「働き方改革」の文脈でメディア露出していくべきだし、人事では日本の働き方や雇用問題を解決したいという人を採用していくべきだ。

もし広告を打つのなら、日経新聞で「残業時間よりもオフィスよりも、変わるべきなのはお給料でした」なんていう意見広告を打つのもいいのかもしれない。ぼくたちはそのすべての領域をサポートしている。先日、PaymeはNikkei FinTech Startups Awards 2018で優勝。東洋経済にて2018年の「すごいベンチャー100」にも選出された。

これまでの広告クリエイターは広告の制作しか求められてこなかった。しかし、今ぼくたちは、企業価値の翻訳を糸口に、あらゆる企業活動をお手伝いすることができる。クライアントの事業が、現在の社会においてどんな意味をもっているのかを再定義し、あらゆるマーケティング活動を加速していく。確かに新しいことに挑戦するのは難しい。責任は重くなっている。

しかし、広告クリエイターにとって、今は相当やりがいのある時代だとも思う。去年のカンヌクリエイティブフェスティバルでも、RGA(アメリカで最も先進的と言われている広告会社)の創業者のボブグリーンバーグは、講演で「おびえろ。めちゃめちゃ怯えろ。そして、それをやれ」と世界中から集まっている広告クリエイターたちに語ってくれた。