# クレプトマニア

貯金2000万円の女性看護師を万引きに走らせた「窃盗症」の恐怖

150~300人に一人、他人事でない
長嶺 超輝 プロフィール

大阪地裁の判例

その点、クレプトマニア患者は、事理弁識能力が正常だとしても、窃盗に限っては行動制御能力が欠けているか、非常に乏しい状態にある。

行動制御能力が欠けていれば「心神喪失」として、処罰の対象外とすることもできるし、著しく減退していれば「心神耗弱」として、処罰を軽くすることもできる。

大阪地方裁判所岸和田支部(2016年4月25日判決)は、「広汎性発達障害の影響下において、摂食障害、盗癖に罹患した状態にあり、これによる食料品の溜め込みと万引きへの欲求は、その生活全体に影響を及ぼすほど激しい」「善悪の判断に基づいて衝動・欲求を抑える行動制御能力については……著しく減退していた」として、犯行当時は心神耗弱だったと認定し、刑を軽くする根拠とした。

クレプトマニア患者による窃盗行為について、心神耗弱まで認めた裁判例は、現在では珍しいが、クレプトマニアへの理解が司法に浸透するにつれて、将来、量刑の傾向が大きく変化してもおかしくない。現行法の矛盾や理不尽に、司法は気づき始めている。

 

一方、刑法が定める窃盗罪は、罰金1万~50万円と懲役1カ月~10年の範囲で、法定刑が設定されている。また、盗犯等の防止及び処分に関する法律は、「常習累犯窃盗」という加重規定を置く。窃盗罪で懲役6カ月以上の判決を10年間に3回以上受けた場合に適用され、法定刑は懲役3~20年にまで引き上げられる。

クレプトマニアに限った話ではないが、いくら罰してもなかなか窃盗をやめない人に対しては、処罰のロットだけ増やしても仕方がない。クレプトマニアには、処罰よりも治療を優先させ、心理カウンセリングを中心にした窃盗防止プログラムを制度化すべきだろう。

盗みによって悲痛な思いに苛まれているのは、被害者のみと限らない。窃盗による新たな被害を増やさないためにも、今こそ、立法府が重い腰を上げ、しかるべき法改正や新法の成立に向けて真剣に取り組むべきではないだろうか。

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