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最大5000倍!社長と従業員の「報酬格差 」が止まらないカラクリ

なぜCEO報酬だけが伸び続けるのか?
東京商工リサーチの調査によると、2018年3月期に「1億円」以上の報酬を得た役員の数は、初めて500人を超えた。日本でも欧米のような高額報酬が得られる時代になったと言える。
しかし、米国ではCEOと従業員の報酬格差が広がるばかりだ。最大5000倍もの「社内格差」が生まれる現状を、手放しで喜んでもいいものだろうか?

米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が解説する。

5000倍!の「社内格差」がある企業も

「振り込まれ 引き落とされて 姿見ず」

これは、ある年に外為オンラインという会社が募集した「ボーナス川柳」の公募で、一位を獲得した三重県の男性の作品だ。

今年の夏のボーナスは、悪くないらしい。景気も持ちこたえているし、労働者不足でもある。日経新聞の集計では、全産業平均で昨年より4.6%の増加だそうだ。

成果主義の会社が増えると、隣の席との報酬格差も気になる。でも、欧米は日本の比ではない。朝、エレベーターに乗り合わせたり廊下ですれ違ったりする同じ会社のCEO(最高経営責任者)とその他従業員との「社内格差」が、数百倍から千倍以上という企業もゴロゴロしているのだ。

米国ではSEC (米国証券取引委員会)の新規則により、今年から上場企業はCEO報酬に加えて、被雇用者(全世界)の報酬の中間値と、両者の比較(ペイレシオ)を開示しなければならなくなった。これによって「社内格差」は、よりはっきりとする。

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目を剥く例を挙げよう。

コーポレートガバナンス調査機関Equilarが発表した2017年のデータによると、全米で150万人もの人を雇っているウォルマートは、従業員の年間所得の中間値が1万9177ドルと、200万円程度でしかない。ところがCEOのダグ・マクミロン氏は2220万ドル、ざっと24億円の報酬を手にしているので、その格差はおよそ1200倍にもなる。

さらに、マドンナ、U2、レディ・ガガを抱えるイベントプロモーターのライブネイションは、従業員報酬の中間値が2万4406ドルなのに対して、マイケル・ラピーノCEOのそれは7060万ドル。約2900倍の格差だ。

「バービー」で知られる玩具メーカーのマテルはもっとひどい。グーグルの役員だったマーガレット・ジョージアディス氏を鳴り物入りでCEOに迎えたが、販売は回復せず株価は大暴落。CEOは14ヶ月で退陣したが、それでも約34億円を手にした。一方マテルの労働者は途上国が中心なので、中間的な年収は70万円足らず。「社内格差」はなんと約5000倍。バービーも真っ青だ。

 

日本もこうした傾向に無縁ではない。

4月にCEOを退任したソニーの平井一夫会長の役員報酬が27億円だったというのが話題になった。東京商工リサーチのまとめによると、2018年3月期に1億円以上の報酬を得た役員の数は前の期に比べて15%増えて538人と、初めて500人を超えた。報酬体系の欧米型化は日本でもじわじわと進行している。

このリストには、ソフトバンクのロナルド・フィッシャー副会長の20億円や武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長の12億円など外国人役員も多いが、最高額の平井会長の他、モノタロウの創業社長からLIXILに抜擢された瀬戸欣哉氏の11億円や、扶桑化学のCEOを退任した赤澤良太氏の10億円など、日本人の名前もトップ・テンの半分にランクインしている。

格差はいつから始まったのか?

米国では日本円で100億円を超える報酬を手にするCEOまでいて、10億円だと「平均よりちょっと下」でしかない。中間的なCEOと中間的な勤労者の報酬格差も300倍近くになっている。

いつから、こんな異常なことになったのか。

米国の経済政策研究所 (EPI)が出している統計では、1970年代までは典型的なCEOの年間報酬は100万ドル以下。せいぜい1億円ぐらいで、平均的な「社内格差」も30倍程度と今ほどひどくなかった。

しかし、レーガノミクスの金融自由化が始まる70年代終わり頃から、これが様変わりする。1978年から2014年までの期間を見ると、この間に勤労者の報酬が11%しか伸びなかったのに、トップの報酬は10倍になっている。勤労報酬の年間成長が0.3%にとどまったのに、経営報酬は毎年3割近くインフレし続けたことになる。