『野心のすすめ』と新書の魅力——私のエッセイがなぜ新書で

現代新書 特別エッセイ「自著を語る」
林 真理子 プロフィール

「皆さん、誰この人? と思っていますよね」

そんな私がなぜ『野心のすすめ』を書くことになったのかというと、2011年の東北大震災の直後、被災地の高校でおこなったボランティア講演がきっかけです。

地元の高校生が800人ほど集う体育館の演台に上り、私は高校生たちからの「このオバサン誰?」という容赦のないWho are you? 光線を浴びていました。

当時の私はすでに「林真理子」の知名度が下がった状況に慣らされてはいましたが、それにしても相手が高校生ということで、とりわけ厳しい状況であることには間違いありませんでした。

「皆さん、誰この人? と思っていますよね。まったく知らないオバサンかもしれませんが、このあいだは私、AKB48の大島優子ちゃんと週刊誌で対談もしたんですよ~!」

プライドもへったくれもない前フリで、高校生たちがざわめきたちます。掴みはオッケー、と言っていい上々な滑り出しでしたが、後半には居眠りして舟を漕ぎ出す高校生も多かったのです。

そんな状況で、講演終了後にただ一人、涙を流さんばかりに感動している人がいました。

「やっぱり、林さんの人生つくづくすごいですよ。本にしましょうよ!」

と言った40代独身の女性編集者がその後、現代新書の出版部へと異動し、頼み込まれて出来あがったのが『野心のすすめ』でした。

「野心」という言葉が古くさい時代に

自分史は若い頃すでに書き尽くしたと思っていたのですが、担当の彼女の「若い人は林さんの昔なんて誰も知りませんよ」という言葉に流されるまま、自分の半生を振り返る作業が続きました。

頑張った時代、悔しかった経験をあらためて思い出し、当時の自分が愛おしくなって思わず涙目になってしまったこともありました。

『野心のすすめ』というタイトルは担当者が出してきたものでした。

 

「あなたはそのままでいいよ」ということが良しとされている今の時代に「野心」という古くさい言葉は正直どのくらいの訴求力があるのかなぁという不安はありましたが、これが逆に新鮮だったようです。

一方で、本の帯に使う写真を相談された際に、小説を書き始めた1983年頃の写真を使ってみてはどうか、と提案したのは私です。

担当者も「エッ、コレ使っていいんですか!?」と驚いていたくらい、新人女子プロレスラーのような若き日の私の「眼力」あふれる写真は、発売当初から書店で目立ってくれたようです。

『野心のすすめ』がヒットしていちばん嬉しかったのは、「林真理子」を知らなかった若い世代がたくさん読んでくれて、考え方が変わったと言ってくださったこと。

また、もともと私の本を読んでいたお母さんが、娘さんにすすめて、お二人でサイン会にいらっしゃることも多く、これも至上の喜びでした。40~50代の読者の方々から、

「『野心のすすめ』すごく良かったですけど、20年前に読みたかったー」

と街で声を掛けられることも増えました。その方々に私は、

「ありがとうございます。20年前に読みたかった、と思われた時点で、すでにあなたの人生は何かしら変化していると思いますよ」

とお伝えしています。

出典:『講談社現代新書 1964〜』