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96歳のいまでも毎晩、ひとりでお酒を愉しんでいます。

タリスカー・ゴールデンアワー第16回(後編)

シマジ: それはひとえに寂聴先生の魅力の賜物でしょう。しかし天台寺でいつもいただくどぶろくが最高でした。

寂聴: そうそう、「どぶろくが美味しいからここにきているのよ」と言ったら、みんな呆れていましたね。

シマジ: いやむしろ檀家のみなさんは喜んだんじゃないですか。

寂聴: あれは檀家さんが内緒でくれるの。一軒一軒褒めるとね、また一生懸命作ってくれるんです。あるとき、一升瓶に入れてもらって飛行機に持ち込んだら、上空でバーンと音がして栓が飛んでね、大変なことになっちゃったの。それでも少しだけ瓶に残った分を寂庵に持ち帰って大事に飲みましたよ。

立木: 瀬戸内先生のどぶろくに対するその執念がお見事です。

寂聴: 翌年は学習して、飛行機に乗っても爆発しないよう、通気性のある稲わらで栓をして持ってきたのね。どうにか無事に家について、さて飲みましょうかと瓶を見たら、蟻がいっぱい入っていたのよ。もちろん蟻を濾してぜんぶ飲みましたけどね。それは捨てられないもの。ですからね、寂庵にきたら、なにを飲まされるかわからないですよ(笑)。

立木: それでも俺はどぶろくを飲んでみたいです。蟻が入っていても結構。

寂聴: いまはどぶろくはありませんが、この「タリスカースパイシーハイボール」にも負けないぐらい美味しい自家製のかりん酒がありますよ。まなほ、せっかくですからみなさんに持ってきて差し上げたら。

瀬尾: はい。例の日本酒もお持ちしましょうか。

寂聴: そうね。わたしが仕込ませた日本酒があるのよ。

シマジ: 「白道」ですか。

寂聴: そうそう、シマジさんには送ってあげたことがあるわね。

シマジ: あれは美酒でした。かりん酒のほうははじめてです。

寂聴: どうですか。かりんはうちの庭で獲れたものなんですよ。

ボブ: なかなかのリキュールです。あんまり甘くないのがいいですね。「白道」も素晴らしいです。飲み口はライトですけど、後からフルーティな香りが拡がりますね。

ヒノ: かりん酒はお湯割なんですね。

寂聴: そのほうが香りが立つんです。

立木: おぉーっ!うーん!これはどちらもうめえ!

ヒノ: 巨匠がこんなに唸るのは珍しいことですね。

寂聴: 「白道」は山形の男山酒造さんにお願いして作っていただいたんですが、最初、社長さんが小さな瓶に10本の原酒を詰めて持ってきて、「この中からお好きなものをなんなりとお選びください」と言うんですね。それでわたしはチビチビ試飲して「これとこれを一緒にしてください」と言うと、社長は困った顔をするのよ。

それで「なにか悪いこと言いましたか?」と訊くと、「このなかでいちばん高いものを2本お選びになりました」って(笑)。

シマジ: やっぱり寂聴先生はいい鼻と舌をお持ちなんですね。ボブ、同じ醸造所のお酒を2つ混ぜるのは、日本酒でもやっぱりバッティングと言うのかね。

ボブ: バットというのは樽や桶のことで、日本酒も昔は木の桶で醸造していたことを考えると、意味としては合ってますけどね。瀬戸内先生は日本酒のブレンダーとしても才能がおありなんじゃないですか。

ヒノ: 「白道」って先生の小説にありますよね。

寂聴: そう。芸術選奨文部大臣賞受賞作でね、それを記念して瓶から箱まで自分でデザインして特別に作ってもらったんです。ラベルの字は榊莫山さんに書いていただいたんですよ。

立木: あの莫山先生に書いてもらったんですか。相当、したでしょう。

寂聴: そりゃあ、相当よ。一般の人ってあんまり知らないのね。みんな親しくなったら「書いてください」ってタダで書かせようとするの。そうしたら莫さんって気が弱いから書くんですよ。だけどそれはいけないことよ。プロのカメラマンに写真を撮ってもらったらお金を払うのが当然でしょう。

立木: その通りです。さすがはわが郷里が誇る瀬戸内先生です。いいことを言ってくれました。ここにいるシマジなんて全然わかっていないんですから。

寂聴: 日本人には「1枚くらいいいじゃない」って、そういうところがあるわよね。

立木: 瀬戸内先生、1枚どころじゃありません。シマジのパスポート写真を、10年ごとにどれだけタダで撮らされたことか。

シマジ: まあまあその話はいいじゃないですか。ところで寂聴先生は現在96歳ですが、いつも何時頃床に着くんですか。

寂聴: そうねえ、仕事をしてたらいまでも真夜中になりますけどね。小説を書いていないときは、でも本を読んで、やっぱり真夜中ですね。

シマジ: 普通、90歳過ぎのお年寄りは、夜9時頃には寝ているものじゃないですか。

寂聴: そうですか。9時なんて、わたしにとってはまだ夕方よ。

一同: アッハッハッハ。

ボブ: 夜はまだ若いって感じですね。

寂聴: だってそれに、お酒を飲むでしょう。

シマジ: いまでも毎晩飲んでいるんですか。

寂聴: ええ、飲んでいますよ。むかしはみんなでにぎやかに飲んだものだけど、いまは1人で静かに飲んでいます。

シマジ: 瀬尾さんは夕方には帰られるんですか。

瀬尾: はい。ほかの方たちもみんな、何もなければ5時で帰ってしまいます。そのあとは瀬戸内1人です。

シマジ: そうか、1人のときこそ慎んで飲んでいるんですね。

寂聴: そういうことですよ(笑)。

〈了〉

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)
1922年、徳島市生まれ。徳島県立高等女学校、東京女子大学国語専攻部卒業。63年、『夏の終り』で第2回女流文学賞受賞を受賞。73年、平泉中尊寺で得度・受戒。膨大な作品群を積み上げ、96年~98年に『源氏物語』現代語訳(全10巻)刊行。2006年、文化勲章受章。天台寺名誉住職。比叡山延暦寺禅光坊住職。瀬戸内寂聴公式インスタグラム:@jakucho_setouchi
瀬尾まなほ(せお・まなほ)
瀬戸内寂聴秘書。1988年、兵庫県生まれ。京都外語大学英米語学科卒業。大学卒業と同時に寂庵に就職。瀬戸内寂聴に送った手紙を褒めてもらったことから書くことの楽しさを知り、2017年6月より「まなほの寂庵日記」(共同通信社)連載スタート。15社以上の地方紙に掲載されている。光文社のWEBサイト「本がすき。」では書評も連載中 https://honsuki.jp/reviewer/seo-manaho
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。現在はコラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。