老舗の新書ブランドはどこまで変えていいのか、変えてはいけないのか

岩波新書 VS.講談社現代新書
永沼 浩一, 青木 肇

新書・最強のページ数は何ページか?

青木 私からももう少しだけ質問をしたいのですけれど、永沼さんは本の薄さに結構こだわってらっしゃるのですか?

事前にいただいた質問のメモに、「新書は何でもチャレンジできる自由な本ですが、一方で、ある程度ページ数に制約(200〜240ページ)を設けて作られてきた本で、それが新書という本の持ち味と考えています」と書いてありましたが。

永沼 こだわっていますね。編集部の人たちには「256ページを超えるな」と言っています。でも、なかなかコントロールが効かなくて、ページの多い本が増えているのが悩みです(笑)

青木 それ、聞けてよかった。すごく迷うのですよね、本のボリュームは。

永沼 悩みますよね。新書はコンパクトさが持ち味と思うのですが、岩波新書も含めて、最近は各社で分厚い新書が出ていますよね。少し前なら単行本で出ていたような本が、いまは新書として出ている。新書と単行本との違いがなくなってきているなと感じます。

 

青木 おそらく単行本を出すのが、新書以上に厳しいことも関係していますよね。

たとえば、私が担当した黒川祥子さんの『県立!再チャレンジ高校 生徒が人生をやり直せる学校』という新書も、5年前だったら単行本で出していたと思うんです。

少しだけ宣伝させてもらうと(笑)、これは凄くいいノンフィクションで、当初は学校名も先生の名前もすべて実名で出そうと思っていたのですが、教員という地方公務員の守秘義務などの問題から、結局「すべて仮名」になったものです。

少しでも安価にして、読者の手に届きやすくと考えて新書で出したのですが、では、あのルポを200ページにしたらどうかと考えると、それはノンフィクションとして重要な箇所をバッサリ落とすことになるわけで、絶対に面白くはならないと思うのです。

先生と生徒の熱量のある会話とか、そういうものを含めて200ページで構成するのは難しい。もし構成できたとしても、あの学校で起きていた出来事を俯瞰的な視点から叙述した、単なる解説的な本で終わってしまうような気がします。

私も基本的に新書は薄くコンパクトであるべきと思うのですが、一方で正当な理由があれば、300ページとか、場合によってはそれを超えても、新書としてありうるのではとも思います。

永沼 うーん、なるほど、それもたしかにそうですね。読者の「面白い本が読みたい」と思う気持ちから考えると、おっしゃるとおりかもしれません。

青木 何も確証はありませんけど、各新書には「鉱脈」というか、型にはまる企画があるような気がするのです。自分たちの新書にある「鉱脈」を、どれだけ見つけられるかが勝負かなという気がします。でも、何も変わらずに、型にはまる企画ばかりやっていても、たぶんいけないわけで、そこが難しいところですね。

永沼 まったくそうですね。

青木 作家の佐藤優さんに教えていただいた『ニーバーの祈り』の一節、「変えるものと変えるべきでないものを見分ける賢さを与えたまえ」という言葉。私は全然賢くないですけど、本当、そこですね、いつも、ずーっと考えているのは。

岩波・中公・現代各新書の会議の進め方

永沼 現代新書さんでは企画会議はどのように進めてらっしゃるのですか?

青木 今は月に2回やっています。1回はどちらかというと連絡会議と言いまして、「最近、こんなことがあったね」とか、「こういう企画、どう?」とか、「近刊のラインナップ、これで行ける?」といったような話をする会議です。もう1つが、いわゆる企画会議ですね。

永沼 岩波新書の企画会議ではタイトルと目次を作って議論する、中公新書さんだったら著者に「はじめに」を書いてもらって、それをみんなで読み合って議論するとか、企画会議は各社各様でいろいろなやり方があるようですけど、現代新書さんではどういうかたちで議論されていますか?

青木 タイトルと目次をまず作るのは、私たちも一緒です。プラン用紙のようなものに、タイトルと大体の章構成と帯の文言などを書いてもらって、それを議論していくというスタイルですね。

永沼 帯のフレーズも書いてもらうのですか?

青木 たまに書かない人もいますけど(笑)。でも、私はそこが大事だと思っています。その本で主張したいことや伝えたいことは、タイトルと帯に出るものですよね。

そこがあやふやなままだと、なかなか良い本にはならない気がします。だから、そこをしっかり考えてください、と言わせてもらっていますね。

永沼 さきほどお話のあった現代ビジネスとの連携は、企画づくりに関してはどのようにしてらっしゃるのですか?

青木 現代ビジネスの編集長とは月に1回ぐらい、会議のようなかたちで話をする機会があります。あと、現代ビジネスは反応がビビッドにその日のうちにあるので、「この記事、本にできないの?」とこちらから持ちかけることもありますし、逆に「この記事、いまPVがすごいんだけど、書籍化しない?」と言われることもあります。お互い同じフロアなので、意思疎通がしやすいのもいいところですね。

永沼 現代ビジネスの記事が現代新書になったケースはあるのですか?

青木 最近で言うと『上司の「いじり」が許せない』(中野円佳著)という本は、もともと現代ビジネスの連載です。もう少し前に出たものでは『ヒットの崩壊』(柴那典著)があります。どちらも現代ビジネスの編集部にいる編集者が作ってくれました。エッジの効いた良い本です。

永沼 最近の現代新書を遠目から見ていると、新しい特徴が徐々に見えてきている感じがします。青木さんが関わるようになって、これまでと違う特色が出てきたのかなと私は思っているのですが。

青木 うーむむ、そう言われると私も人間ですから素直に嬉しいですけど(笑)。本当にそうなんでしょうかねぇ? 自分ではそういう意識は本当に全然なくて、ただ自分が興味のあるものを少しずつ選んでいるだけですけどね。

もちろん、売れそうな企画を意図的に選んではいるつもりですが、編集長になってまだ2年ちょっとですし、とくに1年目に出した本はほとんど先代の編集長が残してくれた企画です。なんでもかんでも自分で一から手がけたという意識はないですね。

永沼 では、編集部全体の意識づけというか、そういうことをなさっているのですか?

青木 それもどうでしょうね? 「もっとこういうものにしていこうよ」という話は一応してはいますけど。たとえば、本のタイトルにしても、「こっちの方に寄せた方が良くない?」という話もしますが、それが当たることもあれば、外れることもありますし、これはどんな編集者だってたぶん一緒だと思いますよ。

永沼 たしかに、正解のない世界ですものね、よくわかります。私も4年目に入ったところですが、いまだに日々迷い、試行錯誤です。今日はとても共感するお話が多くて、勇気づけられました。ありがとうございました。

青木 こちらこそ、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。