老舗の新書ブランドはどこまで変えていいのか、変えてはいけないのか

岩波新書 VS.講談社現代新書
永沼 浩一, 青木 肇

新書でノンフィクションは可能か?

永沼 編集長として着任するときには、ノンフィクションを軸にしてみよういう考えはおありでしたか?

青木 正直に言うと、狭義の意味でのノンフィクションは新書ではちょっと難しいのではないかと思っています。具体的な本で言うと、最近うちで出した『捨てられる銀行』(橋本卓典著)のような、ジャーナリスティックなテーマを現代新書のテイストに寄せていくのがポイントなのかなと思いますね。

永沼 ノンフィクションというと、読者はある程度の密度や深度を求めますよね、あるいは作品性というのでしょうか。端的にいえばボリュームを必要とすると思うのですが、新書という本はコンパクトにまとめなくてはならないですし、簡単ではなさそうですね。

青木 まさにそのとおりなんです。そもそも、ノンフィクションが好きな読者は、新書でノンフィクションを読みたいとは思わない気がします。ただ、新書に合ったノンフィクションのかたちは、どこかにあるのではないかとは思うので、チャンスがあればチャレンジし続けたいという気持ちはあります。

たとえば、岩波新書さんは以前からルポを出していらっしゃいますよね。そのあたりに解があるのかなと思ったことはあります。

永沼 ルポは現場のレポートといいますか、ジャーナリスティックな著作で、それを称して岩波新書では「ルポ」と呼んでいますね。たとえば、堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』はその走りでしたが、ノンフィクションとはテイストが少し違う気がします。

青木 なるほど。ただ、私もまだ模索中なので、結論があるわけではないんです。でも、たとえば月に4冊の新書を出すとき、教養書やビジネス書の間隙を縫うように、ノンフィクション系の書目を少し意識して入れるようにはしていますね。

永沼 たしかに、近年の現代新書さんは、ジャーナリスティックな書目が新たな特徴として見えてきていますよね。

 

本とウェブメディアとの連携

永沼 あと、もうひとつ特徴があるとしたら、ウェブメディアとの連携でしょうか。去年、『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』(NHKスペシャル取材班著)という新書を出されましたが、あの本はウェブ展開でじつにチャレンジングな試みをされていましたね。

新書界初の試み!Webメディア計7媒体合同で各1章ずつ、全文を公開した。
拡大画像表示

青木 新しいことはやってみないで終わるより、やった方が面白いかなと思って(笑)。社内の一部からは「本気ですか」などと呆れられましたけれども。

永沼 ウェブやソーシャルでプレゼンスを上げていくのは良い試みだと思います。講談社さんには「現代ビジネス」というウェブメディアがありますが、現代ビジネスと現代新書との連携はやはり考えていらっしゃいますか?

青木 はい、現代新書で次にできることは何かと考えると、やはり現代ビジネスとの提携が大事だと思っているのです。昨年の『未来の年表』(河合雅司著)や『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(鴻上尚史著)は、発売の時期にタイミングを合わせて現代ビジネスで紹介記事を連投したことで、初速に弾みがついてベストセラーのきっかけになりました。

6月1日からは、現代新書のウェブサイトをリニューアルして(あ、いま皆さんがご覧になっているこのサイトですね)、現代ビジネスといっそう連携していく形にしたのです。ウェブの世界でも現代新書の認知度を上げていきたいと思っています。

永沼 私たちの「B面の岩波新書」も、規模は全然違いますけど、志向しているところは同じかもしれません。従来の読者と異なる層に、いかにリーチするかという点では。

変えるべきところ、変えてはいけないところ

青木 そういえば、岩波新書さんでは最近、『声優』(森川智之著)という本を出してらっしゃいましたよね。あの本もそういう意図がおありだったのですか?

永沼 そうですね、どんな企画なら新しい読者に届くかと考えてチャレンジした本です。

青木 私はふだんから「50年以上続いている教養新書であっても変えるべきところは変えなきゃ」と思っているのですが、永沼さんも「変えていこう」というお気持ちがあるのですか?

永沼 『声優』という新書については、じつは「変えた」という気持ちはないんです。チャレンジではあるのですが、変わってはいない。むしろ岩波新書の王道を往く本だと思っているんですよ。どんな分野であっても、その道の第一人者に書いていただくのが岩波新書の基本ですから。「これも岩波新書だな」と思っています。

青木 格好いいですなぁー(笑)。私は「変えたい」と思っているくせに、そういうところにはすごく敏感で、社内外の人々から「オマエ、最近、現代新書を変え過ぎなんじゃないの?」と言われるのがすごく怖くて、いつもビクビクオドオドしているのですけれど(笑)。永沼さんにはそういう意識はないですか?

永沼 お叱りはよく受けますね(笑)。80年も続いてきた新書ですから、読者の方にはそれぞれが持っておられる、あるいは期待してくださる岩波新書のイメージがあります。でも、私はいろいろな岩波新書があっていいと思っていて。

実際、私自身も「岩波新書らしからぬ」と思われるような本を作ってきましたし。それもやはり「岩波新書」なんですね。さきほど「第一人者」と言いましたが、それは言い換えると、「ど真ん中」を的確に捉えることだと思っています。

テーマであれ、著者であれ、その「ど真ん中」をしっかり捉えれば、どんな本でも「岩波新書」になるようなところがあるのですね、岩波新書には。

いま私たちの編集部は9人いますが、人が変われば出す本も変わりますし、「変える」というよりもむしろ「岩波新書の王道とは何だろうか」と、いつも頭の中のどこかで考えている気がします。