この夏、世界中を沸かせたワールドカップ・ロシア大会は、2018年7月15日に行われた決勝戦で、フランスが4対2でクロアチアを破り、幕を閉じた。フランスの優勝は2度目で、自国で開催された1998年大会から20年ぶりのことだった。
いつの大会でもそうだが、優勝が決まった直後、優勝国の人びとは歓喜の渦にのまれる。それは政府要人であっても変わらない。優勝決定の瞬間、貴賓席で観戦していたフランスのマクロン大統領は、40歳の若い彼らしく思わずガッツポーズを示していたが、その様子は即座にウェブで拡散された。
2度目の優勝という点では、フランス代表チームの監督であるディディエ・デシャンが、20年前にはキャプテンとしてピッチに立っていたことから、選手と監督の両方で優勝を経験したことへの注目も集まった。
この偉業を成し遂げたのは、ザガロ(ブラジル)、ベッケンバウアー(西ドイツ)に次いでデシャンが3人目であり、優勝決定後、即座に行われたインタビューでも、そのことが讃えられていた。
そのインタビューは、一つ一つの受け答えがデシャン監督の喜びと自信をともに表すもので、どの部分も興味深かったのだが、それでも思わず頷かされてしまったのが、サッカーとは直接関係はない、最後に発せられた“Vive la République(共和国万歳!)”という言葉だった。
トリコロールの国旗を背後にしながら戦った後に発せられたこの言葉からは、なるほど、フランス人は、自分たちを「ザ・共和国」、つまり、他でもない自分たちこそが「共和国の中の共和国」、「元祖・共和国」だと思っているのだな、と感じさせるものだった。
確かに、決勝戦でピッチに立ったフランス代表の11人のうち5人がアフリカ系であったことを思うと、このチームこそ、共和国が可能にした多様化されたフランス社会の象徴だったわけだ。選手としてピッチに立ったこともあるデシャンだからこそ、自然に出た言葉のようにも思えた。
もちろん、デシャン監督の最後の言葉は、フランスにおいて公人が公的発言の締めに用いる常套句である “Vive la République et vive la France(共和国万歳、フランス万歳)”からとったものだ。
だから特段に意識して出てきたものではないはずなのだが、それでもその言葉をフランスの優勝を2度、指揮した――1度目はピッチで、2度目はベンチで――ディディエ・デシャンその人の口から聞かされると、あれこれ想像せずにはいられなくなる。
なぜなら、彼の率いたチームは、1度目の優勝のときも、2度目の優勝のときも、共和国の理念を尊重するような、様々な肌の色からなる混成部隊だったからだ。
それがデシャンの率いた、自由、平等、博愛を表すトリコロールを背負ったナショナルチームであり、その多様性は間違いなくチームの力となっていた。
1度目の優勝のときは、チームメイトに世界的スーパースターとして知られたジネディーヌ・ジダンがいた。
点も取れる攻撃的ミッドフィルダーとしてジダンは、攻守に渡って活躍し、実際、98年大会の決勝戦でも2得点を上げていた。マルセイユ生まれのジダンは、北アフリカのアルジェリア出身の両親からベルベル人の血を継いでいた。
では今回のロシア大会でジダンのような注目を集めたのは誰かといえば、それは文句なく19歳で代表入りした新星キリアン・エムバペだろう。
幼少の頃からジダンに憧れていたと公言する1999年生まれのエムバペは、今大会でフォワードとして、トップスピードに乗ってからの速攻とゴール前での絶妙の得点感覚からチームの優勝に貢献した。
ジダン同様、決勝戦でもゴールを決めている。このエムバペの場合は、父がカメルーン出身、母がアルジェリア出身だった。