甲子園連続出場を狙う「偏差値70の彦根東」強さの秘密

強豪大阪桐蔭との公式戦戦績は1勝1敗
松永 多佳倫 プロフィール

野球と勉強の両立が集中力の高さを生む 

野球校には野球校のプライドがあり、進学校には進学校のプライドがある。どっちのプライドが上か下かは関係なく、毎日追い詰められている状況は同じである。ただ強豪私立は私立で野球に関してはやっぱりプライドもあるし、「俺は負けたくねぇ」という意識は高い。そういう意味では愚直だと思う。今の進学校野球部の選手たちは抱えているものが多くありすぎて、そこまで一心不乱に愚直になりきれないのも事実だ。

「進学校のほうが、日常生活はきついと思うんです。練習した後も勉強もしなくてはならないし、自分を律することがたくさんあります。

自分を律することが身に付いて日々勉強に時間を割けるようになってくると、やるべきときに必要なことをきっちりやれるようになる。そうなると、野球でも自然と集中力が上がってきます。

『先生のところ、集中力あるよね』と言われますけど、学力があるから集中力があるのではなく、やるべきときに必要なことをする習慣が身に付いているんです。この子たちは賢い分、先が見えてしまい、安全な道を選んでしまいがちですが、日常生活の中でも野球でも絶対に逃げられない場面がやって来る。そのときに性根を据えて『やってやるわ!』と向かっていける生徒は多いと思います。

練習時間は強豪校と比べると少ないですけど、他のチームが4、5時間の練習をし終わったらもうあとは寝るだけ。でも、この子らは野球の練習を3時間から3時間半やった後、また2時間以上の勉強をする。日々そういう生活を送るために自己管理をしなくてはいけないので、それが大きな武器だなと思っています」

 

「文武両道はすごい」と一口に言うのは簡単だが、実際に彼らの労力は計り知れない。練習が終わるのが21時近くになるときもあり、まっすぐ家に帰っても22時過ぎ、そこから飯、風呂を済ませてクタクタの身体にムチを打って机に向かう。

社会人は対価を貰うために体力や神経をすり減らして働くが、その分ストレスを発散できる場所も幾つかある。

しかし、選手たちはそうはいかない。毎日毎日、野球の練習と勉強に追い込まれ、遊ぶこともせず精神的にも張りつめている状態だ。若さが肉体の辛さをカバーし、過酷な運動することでエネルギーが発散され、精神のバランスが保たれているだけ。それほど、野球の練習と勉強を両立するのは過酷だ。むしろ、社会人のほうが甘いとさえ感じた。

選手たちに聞いて感じたのが、高校に入ったときは勉強と野球の両立は大変だったが、次第に時間の使い方に慣れてくるという声が多いことだった。他の部活よりも明らかに時間が足りない野球部員は迷走しながら、どこかの段階で「野球をしたくて彦根東に入ったんだ」と腹を決める。強豪私学と試合をしても「勉強でも一番を目指しているんだから、野球でも一番を目指す」という芯ができ、臆せず試合をすすめることができるのだという。

滋賀県大会初戦の大津戦は12対0の4回コールド勝ち。

ここ3年間で、同じ関西の強豪・大阪桐蔭との公式戦における戦績は1勝1敗、点差を見ても互角の勝負をしていることからも、選手たちは看板だけで萎縮するようなハートの持ち主ではないというのがわかる。

野球をしているときに見えている部分と野球以外の生活で見えている部分を見比べると、同じ生徒でもまったく違って見えることが結構あるという。監督として教師として、どちらが本当の姿なのかと思案する。——結局、どちらも本当の姿なのだと気づいた。

だから夏の大会前は、村中監督は選手とできるだけ会話することを心がける。会話は互いの信頼感を埋めていく作業であり、「こいつは何を考えているんだ……!?」と疑心暗鬼でいたら、采配にも支障が出る。

冬の間、選手たちにずっとヨガをさせたんです。ヨガは野球とはまったく違う、いわば自己完結の世界です。自己完結なんですけど、自己を開かないといけない。開放しながら自己完結するという非常に独特で矛盾に満ちた世界でもあります。ヨガの先生に来てもらって選手たちにやらせました。ヨガって戦わない世界ですから自分とは戦わないんですよ。戦ったら修行になってしまう。ヨガは開放するんです」

頑張る自分と頑張らない自分のちょうどいいバランスでやるのがヨガ。頑張ったらダメ、頑張らないのもダメだが、頑張らずにできるところをどんどん深めていく。自分の心地よいと思う感覚でいいのだ。

一方で、野球は頑張るしかない。頑張る、踏み止まる、死ぬまで頑張る、の繰り返し。しかし、自分というものを知るためにはどこまでできるのかという限界点と、自分はどうしたら心地いいのか、どうしたら気持ち悪いのかという感情は一見違うように見えるが実は同じである。要は己を知ることが大切なのだ。

「私学に負けないように身体作りをし、技術もある程度のレベルまで教えますが、選手たちは頭で理解できても、心が追いついていかない。それは論理と心理はまったく別物だからです。だから心を鍛え、己を知ることから始めるのが大切なんです」

村中監督が静かにゆっくりと噛み締めるように語り終えた。

偏差値70の進学校だけに、推察力、判断力、分析力、論理的思考力は他の高校生より格段に備わっている。あとは心を鍛え、精神力を養うことで、体に染み付いた技術力を発揮させ、進学校特有の集中力で試合の趨勢を判断して畳み掛ける。

超高校級の体格、技術がなくとも、頭をフルに使い、並外れた集中力を発揮すれば、強豪私立校とも対等に戦える。

そう信じて”文武同道”を続けてきた彦根東の野球部員たちは、この夏、3度目の甲子園に挑んでいる。

 
彦根東の他、松山東、済々黌、時習館、青森、佐賀西の6校が取り上げられている