有機物がある氷の衛星「エンケラドス」に地球人が熱視線を注ぐ理由

「合成宇宙生物学」の第一人者が解説
藤島 皓介 プロフィール

土星の衛星エンケラドスは、表面から内部の液体が氷の粒子となって噴き出している部分があり、どうやら有機物を含むらしいということも分かっています。その粒子を持ち帰って分析すれば、生命の痕跡やその誕生にいたる途中の複雑な有機物などが見つかるかもしれません。

私は「原始的な高分子同士が、初期地球のような環境でどう相互作用し、進化しうるのか」を研究するほか、土星の衛星エンケラドスに関わる2つの研究を進めています。

1つは、海の専門家の集まるJAMSTEC(海洋研究開発機構)と協力してエンケラドス内部の熱水環境を再現し、そこでどんな分子が生まれるのかを実験して探っています。

もう1つはJAXA(宇宙航空研究開発機構)と協力して行っている研究で、エンケラドスに探査機を飛ばし、存在が想定される分子をどう採取するかなどといったものです。探査機と目的の高分子との相対的な速度は秒速4kmもあり、高分子を壊さず採取するにはさまざまな工夫が必要になるのです。

エンケラドスエンケラドスの表面。直径は498km、土星からの距離は約24万km。エンケラドスの南極側からは、間欠泉 のように噴き出す氷の粒子も発見され、そこに有機物が含まれることも分かった Photo by Getty Images

もし、地球とは起源の異なる生命やその痕跡がエンケラドスで見つかれば、地球生命との比較で「生命とは何か」という根源的な問いへの理解が深まるかもしれません。

また、太陽系内に生命が2例あったとなれば、宇宙における生命の存在は珍しいものではないことが分かり、生命に対する考え方も大きく変わってしまうことでしょう。

地球外探査へ、枠組みを超える

研究所を超えてコラボレーションできる土壌、そこがELSIの大きな特徴です。従来の研究予算の枠組みだと、限られたプロジェクトだけに取り組まないといけないのですが、ELSIの「EON」(註参照)という枠組みでは「生命の起源」という俯瞰的な観点でさまざまな研究を支援してもらうことができました。

エンケラドスの探査は、国際協力チームを作って今後NASAに提案していくという段階ですが、生命の起源の普遍的なメカニズムを探求するならば、今後はこうした地球外の探査もますます重要になっていくと考えています。

また、年に一度に開催されるEONの集まりでは、国際的に権威のある10拠点以上の研究所の人と議論でき、とても密な関係性が生まれます。「生命の起源」はさまざまな専門分野が交差するテーマです。自分の専門外から受ける刺激は非常に大きく、必要な勉強も増えましたが、自分自身の視野が大きく広がったのを感じます。

註:EON(ELSI Origins Network)とは、ELSIが地球と生命の起源を研究していく上で、世界各地の研究者との関係性を広げそのネットワークを構築していくプロジェクト。2015年7月1日に発足し、500名を超える研究者を擁する学際的ネットワークを作り出した。2018年3月31日までで第1期のファンディングは終了したが、ネットワーク活動はますます広がりを見せている。

宇宙生物学は今、日本でもようやく認知度が高まりつつありますが、それを学ぶことのできる教育機関はまだありません。今後、ますます面白くなっていく分野なので、国内の大学にもぜひ宇宙生物学科ができたらいいですね。その時は、私もぜひ協力したいと思っています。