地球には約38億年前に、私たちの共通祖先となる初期の生命が存在していたとされています。
その生命はすでに、現在の地球生命に共通しているルール、つまりDNAからRNAを介してタンパク質を作って、さまざまな生命の反応を駆動させるシステムを完成させていた──と考えられています。
しかし、この根本的なシステムが、いつどんな環境で、どういった分子の進化を経て誕生したのか、ということはいまだによく分かっていません。
生命とは何か、その根源的なルールはどのようにしてできたのか。私の関心はそこからスタートしました。
ところが、博士号を取得した2009年当時、生命の起源をメインにした研究は、研究室単位での取り組みはあるものの、組織として取り組む研究所は国内にありませんでした。
そこで海外に目を向け、宇宙における生命の起源や、宇宙全体に生命がどれくらい存在する可能性があるのかといったテーマを探る「宇宙生物学(アストロバイオロジー)」という分野の存在を知りました。そしてインターンでNASAエイムズ研究所へ行き、将来の火星移住に向け、火星の環境に耐えられる微生物を生み出そうとする研究を学びました。
この経験をもとに遺伝子工学的な技術で生命の起源を研究したいと考え、「合成宇宙生物学(シンセティックアストロバイオロジー)」という新しいアプローチの学問を提唱しました。
つまり、初期の惑星に存在したと想定される分子を人工的に実験室内で生み出し、そこから重要な機能があるものを選び出して、分子の進化を探っていくという研究です。
宇宙生物学では、太陽系外の惑星の大気成分から生命の痕跡を探すといった研究も盛んですが、太陽系内の生命探査という点では、約38億年前に海が存在していたとされる火星も有力な候補の1つです。今後、火星から生命の痕跡が見つかるかもしれませんし、もしかするとそれが地球の生命と共通の祖先を持つ可能性もあります。
これとは別に、地球とはまったく別系統の生命が誕生したかもしれないという可能性もあります。その候補となる場所は、土星や木星のような重たい星の衛星です。
衛星は大変強い「潮汐力」と呼ばれる力で縦や横に引っ張られてゆがみ、その摩擦で惑星内部に熱が生じます。太陽に近い惑星ではこの熱のおかげで表面の氷が溶けて海ができるわけですが、こうした重い惑星の衛星では表面を覆う氷の内側に海ができるのです。