私たちは、視覚や聴覚などの五感で世界を捉え、その情報を脳で処理し、その結果が、感情や行動につながっているという。
立教大学現代心理学部の日髙聡太准教授は、普段は意識されない「見え方」や「聞こえ方」などを研究して、「人が世界を感じる仕組み」の解明に取り組んでいる。
(立教大学「FEATURED RESEARCHERS」より一部転載)
あなたと私は違う世界を感じている
私たちの毎日は、身の回りの状況を「感じる」「考えて理解する」、そして「行動する」の3つで営まれている。それらの営みについて、誰もが持つ共通性を導き出そうとするのが「基礎心理学」だ。
日髙准教授の専門は、その中でも認知心理学、知覚心理学といった分野。この分野において、五感の間で生じる「感覚間相互作用」を主なテーマに、長年研究に取り組んできた。
2013年には「触れられると、目の前の物が見えにくくなる」ことを、世界に先駆けて証明したことで注目を集めた。
日髙准教授の最近の関心事は、共通性とは対極にある「個人差」にある。
「実験では全員に同じ条件下で同じ感覚入力を与えるのに、人それぞれに反応が異なります。例えば、何人かの実験参加者に同じ条件、同じ強さで触れるテストを行うと、全く気付かない人がいれば、逆にものすごく敏感に反応する人もいる。
感じ方は人によって驚くほど違うのです」
同じ事実を前にしても受け取り方はそれぞれに異なる。見る、聞く、触れるといった感覚が違えば、同じ場所にいても、あなたと私の周りには別の世界が広がっているのではないか。そしてそれは、個人が持つ特性の差に通じているのではないか……。
そんな考えから、今、日髙准教授は大学院学生と共同で、さまざまな研究に取り組んでいる。
私たちの「舌」は「見た目」に騙される
「研究の出発点は“自分自身のことが知りたい”という単純な好奇心なんです。自分の心や脳、身体で何が起きているかを知ることは楽しいですよ、純粋に」と顔をほころばせる日髙准教授。
知的な好奇心こそ、研究の最も重要な動機。当然、学生の「面白そう!」にフタをすることはない。
「学生にもテーマを押し付けず、『自分が楽しいと思うことをやろう』といつも言っています。彼らの視点って素晴らしくて、僕には思い付きもしないアイデアが出てくることもあり、刺激的です」